社内をざわつかせた「結婚ではない転勤」
ところが6年が過ぎた時、秘書室に異動になり、あらためて「自分は何かを生み出す仕事がしたいんだ」と気づく。今とは違う仕事がしたいと上司に訴えたが、サンスターの本社は大阪。鈴木さんが勤務していた東京オフィスには職種の選択肢があまりなく、勧められたのは大阪本社にできた新しい部署だった。
「社員福祉組織の設立に携わる仕事で面白そうだったので、じゃあ大阪に行きますと。普通は転勤って大きな決断なのかもしれませんが、私はあまり深く考えていなくて、どこで働いても一緒かなと思ったんです。ただ『新しい仕事ができる』という思いだけで転勤を決めました」
とはいえ、結婚ではない理由で女性が転勤するのは、社内ではほぼ初のこと。鈴木さんは「赴任先で皆に驚かれたことに驚いた」と笑う。
こうしたマイペースなところや、自分の思いに対して正直に、素直に行動できるところは大きな強みだろう。実際、この行動は後に続く女性社員たちに、結婚ではなく希望する仕事のために転勤するという選択肢を与えるきっかけにもなった。
大阪での仕事は楽しかったが、2年が過ぎた頃、生まれ育った関東へ戻りたいと思い始める。タイミングよく、会社は東京オフィスにも広報部員を置こうとしていた。鈴木さんは上司に勧められ、東京ではたった一人の広報部員として新たなスタートを切った。
「多少の失言では会社は傾かない」上司からの励ましで成長
当時は広報について何の知識もなく、協業していたPR会社の女性社長に一から育ててもらったという。この時教わったことは、今も大事な心構えとして胸に刻んでいると語る。
「広報は、広告を含めた企業のコミュニケーション活動全体を俯瞰する目線と、対応力や情報力を含めた“人間力”が問われると教えてもらいました。広報のイロハを教わり、早いうちに自分の役割が腑に落ちたので、本当に恵まれていたと思います」
同時に、大阪本社広報室の上司からも多くのことを学ぶ。上司は、メディア対応にびくびくしていた鈴木さんを「取材で多少失言しても会社は傾かないから大丈夫」と励まし、記者が何を知りたいのかをよく考えて誠実に答えること、そのためにも事前に入念な準備をするようにと指導してくれた。
この時期は多くのことを学び、自分の成長を実感できた時期でもあった。加えて、企業広報は会社と社会をつなぐ仕事。鈴木さんにとっては、会社と社会のどちらにも寄り過ぎない“中間の立ち位置”が心地よく、「広報って楽しいな」と充実した気持ちで働いていた。