「追加料金を請求できるような付加価値が必要だった」

PwCではLIBOR廃止後をにらんだコンサル営業を「LIBORプロジェクト」と呼び、顧客情報をグローバルに共有しようと毎週会議を開いている。日本ではPwCコンサルティングだけでなく、PwCあらた監査法人の会計士も交えて情報を共有している(ただし、この情報漏洩にはPwCあらたは関与しておらず、PwCコンサルティングが単独で漏洩していたという)。

情報漏洩には金融サービス事業部を担当するパートナーと呼ばれる経営幹部らが関わっていた。日本法人のパートナーや日本に赴任している米国法人のパートナーのほか、米国公認会計士資格を持つマネジャー職の男性社員も関わっている。「米国人パートナーは情報の管理に慎重だった」(関係者)との指摘もあるが、海外金融機関の情報についてはこの人物が中継局のような役割になっており、日本人スタッフが情報を引き出して顧客に漏らしていたとみられる。

PwCジャパンは、ロンドンのPwC本部に支払う諸経費の負担が重いうえ、PwCコンサルティングでは「正規のコンサルティング料金だけでは経営幹部の報酬を賄いきれず、追加料金を請求できるような付加価値が必要だった」(関係者)。そのため社内で「プライオリティ・アカウント」と呼ばれる再優良顧客をつなぎ止めたり、受け取るコンサルティング料にオプション料金を上積みしてもらうために情報を漏洩していたようだ。こうした無理な営業姿勢が社員の長時間労働やパワハラの温床になっていたとの指摘がある。

事態を重くみた会計士協会や金融庁はすでに調査を開始

PwCジャパンに情報漏洩の有無を質すと「そうした事実は確認できていない」とコメントした。一方、三菱UFJ銀行とあおぞら銀行は「そうした事実はない」、みずほ銀行と農林中央金庫は「コメントは差し控える」と回答している。

PwCから情報を受け取っていた窓口は経営企画部であり、われわれの質問にコメントを寄せた広報室は、経営企画部に属していることが少なくない。金融機関がこんな回答をするしかないのは、こうした内部事情があるからかもしれない。

しかしどう言い繕おうとも、会計士協会や金融庁が調査を始めた決定的な証拠がある。会計士協会はこの件について沈黙し、金融庁はノーコメントだったが、今年7月、会計士協会の自主規制本部事務局が関係者に対して「本格的な調査を始める」と伝えるメールを筆者は入手しており、すでに外堀を埋める調査は終えているもようだ。

会計事務所に関しては、米国で監査部門とコンサルティング部門の分離が実施され、英国でも大手会計事務所に対して同様の措置を求めている。今回の問題を受けて、日本でもこうした議論が活発化するのは間違いない。また、一義的な責任はPwC側にあるとしても、情報を受け取っていた銀行の責任を不問に付すことはできないだろう。

さあ、PwC内で何が起きていたのか、そして不正の温床には何があったのか。筆者はさらに深く暗部に分け入っていこう。

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