容積率を伸ばすアイデアのもとは、IMF危機時代の韓国だ。1988年のソウルオリンピック時代につくった安普請の住宅をつくり変えなければいけない時期がきた際、当時の金大中大統領は容積率を倍にして高層化する政策を打ち出した。その際、ついでに光ファイバーを張り巡らして、韓国は一気にインターネット先進国になったのだ。

さらに金大中氏が超クレバーだったのは、減価償却の期間を半分の15年にして、償却を加速させたことだ。償却が早くなれば大きなキャッシュフローが入ってくる。償却期間が16年以下なら生命保険会社も投資できる。結果、民間の金が流れ込んで韓国経済は一気に回復、IMF危機を脱したのだ。

韓国と中国のやり方に学ばない手はない。森ビルのように20年近くかけて地上げし、高級賃貸住宅+商業施設をつくるのではなく、ブロック単位で建て直し、一般のサラリーマンでも十分入居できるようにする。容積率1600%で建て替えたら、東京の築地、晴海、豊洲、勝鬨辺りはマンハッタン以上の絶景ポイントになるだろう。もちろん台東区、江東区、墨田区なども有力な候補地だ。大阪も大阪城の周りをセントラルパークに見立てれば、見違えるような住宅街になる。

21世紀の街並みに全部つくり直すのだ。そうなれば今後20年以上建て続けなければ間に合わない。ゼネコンは過疎地でダムや道路をつくらなくても、人口密集地で金の裏付けがある工事でアゴが出るくらいの仕事量が生まれる。日本は世界第二の経済大国と言っても街並みは戦後の闇市の頃とあまり変わらない。北京や上海、青島、広州、大連などのほうが21世紀の世界首都にふさわしい。パリ、ロンドン、ニューヨーク、ベルリン、ペテルスブルグなどを見れば、東京や大阪は風格ある世界都市とはお世辞にも言えない。

この壮大な都市開発が実現すれば、もう上げ潮どころではない。日本経済は一気に元気を取り戻す。世界中をさまよっている6000兆円ものホームレス・マネーを呼び込めるし、銀行などに眠っている日本国民1500兆円の金融資産も動く。そうなれば、もう納税者の金を使わなくてもすむ。これが私の言っているボーダレス経済論と地域国家論の原則である。21世紀の優れた行政府は、納税者の金を使わないというのが大前流セオリーなのだ。

私は評論家でも学者でもない。95年に上記のような東京再生ビジョンを掲げて都知事選に出た。故・青島幸男氏が圧勝したあの選挙である。都民は青島氏を選んだ。そして当時52歳であった私はもう65歳。この20年以上かかる大計画を見届けることはできないだろう。

しかし、私には残された人生でできることがある。リーダーの育成である。日本には、そして特に東京には、金があり需要があるのにそれができない。リーダーのビジョンと意思がないからである。日本全体にも共通するこの問題を解決するために、私はその基本的枠組みをつくって後生に残していきたいと思っている。読者諸氏もぜひ何らかの形で参加してもらいたいプロジェクトである。

(小川 剛=構成)