日本の大学に欠けているもの

新大学に設置する学部は経営学部のみ。経済学部、商学部、工業経営などの区分けは現代においてほとんど意味がない。経営学部という形で一本に統合できる。そして入学後の1、2年生の段階では、語学とエンジニアリングの勉強に相当の時間を割くつもりだ。

世界の趨勢を見ると、ビジネススクールに入ってくる人の半分以上は工学部の出身だ。文科系が多数を占めるのは日本だけ。日本人の理工離れ、理系アレルギーはシリアスな問題だが、最先端のカリキュラムを揃えるBBT大学院大学は約半数が理系出身だ。

アメリカでは、エンジニアリングを5年くらい学んでから法学部に入り直して弁護士になったり、医学部に入って医者になるパターンが珍しくない。難しい物理や数学を最初にやっておけば、後はどうにでも転用が利く。ダメならそのままエンジニアになって、橋でもビルでもつくればいいのである。

日本では大学受験を控えた高校時代に理系か文系かを決めさせるが、これがそもそもの間違いだと思う。日本は工業立国して生きていくしかないのだから、7~8割の人材は一度IT+エンジニアの勉強をさせるべきだ。高校時代に文系を選択した人の多くは、物理や高等数学どころか単純な算数すらできなくなる。それで社会に出てから財務や資産運用の勉強をするのは相当苦しい。バランスシートを読みこなすことも、複利計算さえできない人もいる。

実社会でエクセルやパワーポイントを使いこなすにしても数学的な頭脳があったほうがいいし、マーケティングの分析というのも結局は数学の世界である。数学的センスがなければ、財務やマーケティングの数字を見てもその数字の意味を正しく把握できないし、もっと言えば数字を見るだけで気付くような勘や閃きも得られない。

理系、文系で振り分けるのでなく、全員がエンジニアリングを勉強して基本の数学脳を鍛える。その上に個々の職業選択に応じた勉強が積み重ねられるような大学教育を目指すべきなのだ。

もう1つ、日本の大学教育に決定的に欠けていて、新大学で徹底的に仕込もうと思っているものがある。いわゆる「リーダーシップ教育」だ。

そもそも欧米の大学には、リーダーシップ養成のための専門コースがあり、大学教育の中核的要素になっている。教育の一番重要な目的は何かと尋ねると、世界の多くの国でリーダーの養成という答えが返ってくる。

典型的なのがフィンランドやデンマークなどの北欧諸国だ。市場の限られた小国は、海外で活躍できる国際的な人材を育成しなければ生き残れないという発想のもと、国籍も宗教も異なる人々をモチベートして、力を合わせて結果を出すためのリーダーシップ教育がなされている。実際、欧米の多国籍企業のトップマネジメントに北欧出身者が登用されるケースが目につく。