日米両国が陥った「ケインズ妄信」の失策
政権交代からわずか2年で3人目の野田佳彦首相が誕生した。今はまだ無色透明に近い状態なので論評は避けるが、国家財政の危機的状況を鑑みれば、財政規律派の野田首相は現実的には唯一最良の選択肢だったといえる。
しかしながら、震災復興と原発事故の収束という重い課題を抱えた新政権の経済運営が相当厳しいものになることは想像に難くない。野田首相に心してほしいのは、バラマキと借金を繰り返す従来の経済政策では日本の経済社会に光が差し込むことは決してない、ということである。
日本が「失われた20年」から得なければならない最大の教訓は、ケインズ経済学以降のマクロ経済理論はもはや通用しないということだ。日本政府はバブル崩壊後の20年で300兆円もの財政投融資という世界史上例のない財政出動(公共投資)を行い、ゼロ金利政策と量的緩和政策を続けてきたが、まったく効果がなかった。
財投は景気のカンフル剤というより麻薬のようなもので、公共投資をしているうちは何とか景気は持っているが、やめると禁断症状が出てくるという悪循環。またゼロ金利や量的緩和で市場に資金を供給しても、金融危機の後では銀行は自らの生き残りを優先するので、リスクを取ってまで貸し出さない。貸し渋りや貸し剥がしが横行し、経営が苦しい中小企業や個人には資金が回らない状況が生まれた。
これは日本だけに見られる特異な現象ではない。今、アメリカは日本とほとんど同じパターンの陥穽に足をとられている。リーマンショック以降、「オバマ・ニューディール」ともいうべきバラマキ総合経済対策を講じてきたが、まったく効果なし。雇用にもつながらず10%近い失業率が続いている。
また日本同様、アメリカも金融危機後にメガバンクは実質的に3つに集約された。アメリカは2008年から事実上のゼロ金利政策を取っているから、調達金利は下がっているはずだが、銀行はやはり自らの生き残り、自己資本の充実を優先してクレジットを絞るようになった。おかげでアメリカはクレジット社会から貯蓄社会へと急速に変化し、今やアメリカの貯蓄性向(可処分所得における貯蓄率)は日本を上回るほどだ。金利引き下げやマネーサプライの増加による景気刺激効果は企業、個人ともにほとんど見られない。