(3)自主性を尊重する

ああしろ、こうしろと指図されるのが好きな人間はいない。誰かが「イエスかノーか」の二者択一の要求をしたり、あなたの振る舞い方を指図したりするとき、その人物は、あなたが自分の思いどおりに決定したり、行動したりする自由を制限していることになる。「この取引をまとめたいなら、私の価格を受け入れなくてはいけない」とか、「小幅な増額しか得られなかったからといって落ち込まないでくれ」といった言葉は、あなたの自主性を侵すものであり、あなたの気分を害するだろう。また、契約書の試案は自分のほうで作成すると言い張ることも、相手の自主性を侵害する行為になるかもしれない。

自分の自主性と相手の自主性を尊重することは、多くのネゴシエーターが陥る感情の落とし穴を避ける一助になる。フィッシャーとシャピロが述べているように、組織のリーダーは自分の決定が社員の生活を左右することをともすると忘れがちになる。たとえば、合併を計画している場合には、2つの会社の企業文化が互いにどのような影響をおよぼし合うかという、社員にとっては決定的に重要な問題を、経営者は検討すべきだろう。上司には当然、組織の基準を設定する権限がある一方で、自主性にかかわる問題を識別し、それらの問題を社員と話し合うことは、対立を最小限に抑える一助になる。

(4)相手の地位を認める

 「あらゆるネゴシエーターに敬意をもって接しよう」と、フィッシャーとシャピロは述べている。誰にでも「専門知識や経験によって比較的高い地位を与えられている分野」があるからだ。あなたは財務計画に詳しいことでその分野で高い地位を与えられているかもしれないが、あなたより若い相手は、数値処理に必要なソフトについてあなたより熟知しているかもしれないのだ。

相手の「地位の分野」を見きわめて敬意を払うことは、信頼感や相互協力を高め、高ぶった感情が深刻化するのを防ぐ働きをすると思われる。地位の基盤となる分野としては、学歴、ビジネス経験、技術経験、人脈など、さまざまなものが考えられる。

相手の地位を認めることは重要だが、その一方で、フィッシャーとシャピロが「地位の副作用」と呼ぶものにとらわれないよう注意することも必要だ。とりわけ、CEO、著名人、金持ちなど、高い地位の人々の意見を特別に重視することは避けなければならない。高い地位の人間と親密になると、自分自身の地位も高くなったような気がすることがあるため、あなたは相手を喜ばせようとしたり、感心させようとしたりする危険性がある。そのような親密さは、誇りや自負といった正の感情を生み出してはくれるが、賢明な決定を下す能力をゆがめ、あなたやあなたの会社の最善の利益にならない結果をもたらすおそれがある。

(5)納得のいく役割を選ぶ

われわれはみな、生活のなかでいくつもの役割を演じている。マネジャー、親、友人、兄あるいは弟などだ。ネゴシエーターとしてのわれわれは、クライアントや上司の代理人という役割を演じていることもあるだろう。自分の役割が気に入らない場合、あるいは自分の複数の役割が互いに対立する場合、負の感情が高まることがある。

強い感情は、うまく方向づければ、情熱を込めて自分の言い分を主張する原動力になる。しかし、交渉の最中にあなたが自分の感情に負けてしまったら、感情はあなたの関心を要点からそらし、ひどい結果をもたらすことになる。これまで見過ごされてきた中核的要素を重視することで、あなたはより有能で強力なネゴシエーターになれるはずだ。

(翻訳=ディプロマット)