相手が挑発的な態度をとったときにはつい感情的になりがちだ。議論がヒートアップしてきたとき、互いに冷静さを保つためには、どんな態度をとればよいのだろうか。

強い感情のプレッシャーがあるなかで交渉することは、ネゴシエーターにとって最も厳しい挑戦の1つかもしれない。誰かに不快なことを言われたら、言い返したくなるはずだ。激しい感情――悔しさ、怒り、失望、不安、恥ずかしさなど――に襲われると、気をしずめて交渉を続けることなど不可能ではないかと思えるときがある。

医療機器メーカーのビジネス開発担当副社長、マークは、香港の販売代理店の販売担当副社長、フランシスと、販売契約の詳細について何カ月もかけて交渉してきた。マークは最終合意がまとまることを期待して、シカゴのオフィスにフランシスを迎える。ところが、最初の挨拶がすむと、フランシスは売り上げからの代理店の取り分を10%上げてくれと要求する。合意ずみと思っていた問題が蒸し返されたのだ。

マークはショックを受けて、こう言い返す。「われわれはすでにあらゆる問題で合意しており、私はそれを上司に報告している。それなのに、あなたはもっと搾り取りたいというのか。そんなことが受け入れられるはずがない」。マークはミーティングを取りやめにしたい気分だが、その交渉を救済できるかどうかを素早く、しかも理性的に判断する必要があることも承知している。
われわれの多くがそうだが、マークもまた、交渉の場で自分の感情に対処する具体的な策など持ち合わせてはいない。感情の領域は複雑だから、それは無理からぬことだ。

ハーバード法律大学院交渉プログラムの研究者、ロジャー・フィッシャーとダニエル・シャピロは、新著『Beyond Reason: Using Emotions as You Negotiate(理性を超えて:交渉のなかで感情を利用する)』で、交渉のなかで感情にうまく対処するための新しい枠組みを打ち出している。「人は考えを持つのをやめることができないように、感情を持つこともやめることはできない。なすべきは、交渉相手のなかに、また自分自身のなかに有益な感情を生み出せるようにすることだ」。

『Beyond Reason』はネゴシエーターに、交渉でとくに重要と著者がみなす5つの中核的要素――賞賛、親和、自主性、地位、役割――に関心を集中するよう勧めている。

「これらの中核的要素を使って交渉の席の感情的雰囲気を理解し――おそらくはさらに重要なこととして――それを改善することができる」と、シャピロは言う。「より楽々と、より効果的に交渉できるようになる」。