もう一つの仕組みがチームマネジメントである。それを支えるのが個人の成果だけではなく、チームの成果も給与に反映させる評価制度である。

「評価制度は単純に個人評価だけではなく、チームの評価も取り入れています。また、評価は成果(業績)と行動評価の2つに分かれ、成果は結果主義・個人主義に陥ることがないように、成果=業績+業績に結びつく行動と定義し、仕事のプロセスと日常の仕事ぶりも大事にしていますし、会社目標・部門目標の共有と個人目標の連鎖を強く意識づけしています」(磯人事部長)

たとえ個人が販売目標を達成しても、チーム全体として目標を達成できなければ部門評価が下がるという仕組みである。したがって「スーパースターはもちろん必要だが、チームの全員がスタンドプレーに走ってしまえばチームの目標を達成することができない。一致団結して全員がチームを盛り上げていくことが要求される」(磯人事部長)ことになる。

また、チームの力を最大限に発揮するための組織として近年、新たに「人材開発室」と「営業支援室」を設置した。人材開発室は階層別・商品別・職種別の教育訓練を担当し、営業支援室は現場のOJT教育を担う。営業支援室は「新入社員に限らず、現場の係長やマネジャーの悩みや相談があれば、直接出向いて教育・指導し、問題を解決するための支援を行う」(磯人事部長)ことで現場力を強化している。

さらに地域営業本部ごとに元幹部クラスのセールスコーディネーターを設置し、各地域を回りながら本部の施策を伝達するとともに、現場の意見を吸い上げ、その声を施策に反映するなど全社の一体感を醸成する活動も実施している。ヤナセといえども大不況下での営業活動は厳しく、一人当たりの平均売り上げが「お月さん」に達しない月もあるという。そういうときこそ重要なのが「やる気よりもやれる気」だと磯人事部長は指摘する。

「マネジャーがやる気を出させるために叱咤激励をするのでは、一生懸命にやっている人には抵抗があります。実績に結びつかないなら、どうして結びつかないかを自分で考えてやれるようにしてやる。つまり自発的に“やれる気”にさせることが大事であり、目下、現場ではそういう動きを徹底してやっています」(磯人事部長)

各人各様の個性と結びついた営業力を花開かせ、組織全体の生産性へと結びつけるチームマネジメントの融合こそヤナセの最大のブランド力といってもいいだろう。

(ライヴ・アート=図版作成)