ミドルを危機に追いこむ、3つの“職場寒冷化”

言い換えると、私は、ミドルが自らの役割を十分発揮できなくなったのは、経営の仕業なのではないかと思うのである。したがって、ミドルは強化されるべき存在ではなく、支援されるべき存在となる。

では、より具体的にはどういう要因が絡んでいるのだろうか。いくつもあるのだろうが、私は主に3つの要因が潜んでいるように思う。私は、この3つをまとめて“職場寒冷化”と呼んでいる。この環境変動により、ミドルマネジメントが危機に陥っているのである。

第一は、組織のスリム化とコストカットである。バブル経済が崩壊してからの日本の職場では人員など資源一般のスリム化が大きく進んだ。その結果、職場は、質的に見ても、量的に見てもぎりぎりの状態に置かれているのである。上記にのべたようなミドルが戦略性や人間性を発揮するには、ある程度の余裕が必要だ。だが、そのための“のりしろ”が減っている。日々の仕事に追われて、部下への配慮や育成をする余裕すらないのである。新たな方向を考える余裕などとてもない。

ちなみに、愛知県経営者協会が平成21年度に行った質問紙調査(研究報告書「『ミドル』を活かせ」)でも、「ミドル層が抱える業務遂行上の課題や悩み」として、多くの回答が集まったのは、「職場の人手が足りない」(46.7%)、「ノルマや課題達成といったプレッシャーが強い」(30.2%)であった。忙しさやプレッシャーに追われて、自分ならではの仕事ができにくい現場ミドルの姿が浮かぶ。他のミドルに関する調査を見ても、ほぼ同様の結果である。

第二は、人材に関する新たな考え方の浸透、特に“成果主義”の普及である。ただし、ここでいう成果主義とはいわゆる賃金制度としての成果主義ではない。賃金制度改革としての成果主義の副産物として進展した、成果や結果を出すことへのプレッシャー増大を指す。

いうなれば、“できる人”とはどういう人かに関する判断基準の変化であり、具体的には、マネジメント能力ではなく、目に見える形での業績貢献が、人材評価の基準として重視されるようになったことである。また、こうした状況は、ミドルのプレーイングマネジャー化でも強化された。

人材に関する価値観の変化だから、本当の成果主義の到来だともいえよう。ミドルにも、成果を出すプレッシャーが大きくのしかかり、本来のマネジメントの仕事がやりにくくなってきたのである。

愛知経協調査でも、前記した業務遂行上の課題や悩みの上位にノルマや課題達成へのプレッシャーがあげられる点や、実務とマネジメントの比率に関して、実務を減らしたいと考えるミドルが半数以上(50.9%)いるのである。そして、実務を減らしたいと考えているミドルは、「組織全体を見渡したい」(実務を減らしたい50.9%中、33.3%)、「マネジャー特有の業務に専念したい」(同、29.8%)、「自ら課題を構築し、解決したい」(同、13.2%)などをその代わりにする仕事としてあげており、実務を減らして、よりマネジメント的な仕事をしたいと願うミドルの希望が読み取れる。

そして第三は、ミドルが現場リーダーとして育つ機会が減少したことである。多くの企業で、階層別研修などのミドル支援のための研修が減少し、選抜型のシニアリーダー育成へと予算が振り分けられた。また、企業自体の事業変革や、組織再編などが行われるなかで、これまでの順調なキャリア発達が阻害される側面もあった。さらにOJTに依存してきた現場リーダーの育成は、職場の育成機能の低下により阻害されている。職場は、ミドルマネジメントになるまで、後輩指導を通じて、チームを率いる能力を獲得する場であった。その意味で職場は、リーダーシップを学ぶ教室だったのである。

愛知経協の調査でも、業務遂行上の課題や悩みとして、「これまでのキャリア形成が不十分だった」を24.0%があげるなど、力不足、能力不足、経験不足を感じるミドルが多いことが明らかになっている。さらに自らの役割をよりよく果たすために必要なスキルとして、58.7%が、「上司と部下のコミュニケーション能力」をあげている。多くのリーダーが自分の力不足感で悩んでいるのである。