地方自治体は中心地の活性化を目的に「多目的ホール」を建てたがる。しかしそうした施設の多くは有効活用されていない。まちづくりの専門家である木下斉氏は「万人受けしそうな施設を造っても人は集められない。むしろ限られたマーケットに特化すべき。たとえば急成長しているサウナ市場であれば、地方の強みを生かせる」という——。
税金のムダ遣いが起こる構造的な問題点
全国各地の自治体が、中心部を活性化するために多目的ホールなどを擁する施設を開発したものの、年間数回しか使われないという笑えない話はいまだに存在します。「ホールの活性化が必要」というような本末転倒な状況になり、さらに税金を投入し続けるケースも多いです。
とくにこの数年間は、交流拠点施設(MICE施設)と呼ばれる音楽ホールと国際会議場などが複合化した多目的施設を全国各地で競って開発していました。全世界から人が集まって学会が開催されたり、音楽イベントが開催されたりするはずだったものの、その多くは現実として夢物語のような計画を下回る利用しかなく、維持費がかさんで倒れるというパターンでした。さらに今では、新型コロナウイルスの感染拡大により、利用どころではなく、無用の長物となる地域も存在しています。
税金で造られた多目的施設の根本的な問題は、公益に資するために議会などで議論し、多くの人にとって利用可能性がある施設を開発しようとする構造にあります。そのため、一部の人しかしないマイナースポーツのような競技の専門施設や、特定の会議を行うための会議場、専門の音楽分野に特化した音楽施設を造るのは、税金で開発することになじみません。
結果、多目的というところに落ち着いてしまいます。しかし、あらゆるものに対応することは、それぞれに最適化されるわけではなく、帯に短し襷に長しという状況になる。
さらに、全国の自治体が似たような施設を造ってしまうため、その施設を利用しようと広域から人が集まることもありません。それが、地元の人たちだけでたいして利用もしない多目的施設を支えるという、誰も得しない状況を生むのです。