話は戻る。

各セクションからの参加者は“ザ・ウルフ“朝倉に状況を報告する。それを聞いた朝倉は状況を把握して片っ端から指示を出していく。

生産・物流現場の対策本部だから、主な議題は工場の生産状況と部品の供給、サプライチェーンの保持についてである。他に感染予防対策も議題に上がるが、それはすぐにプランができる。一方、部品の数は多い。関係者が多くなるから、対策を立てるにしろ、時間と手間がかかる。

目的は「部品3万点の欠品を防ぐこと」

車の部品数は約3万点とされている。そのうち3割は内製品だけれど、残りの7割は協力工場(サプライヤー)が作る。トヨタの工場が動いていても、協力工場が稼働していなければ車を製造することはできない。他人の工場ではあっても、身内のそれと同じなのである。そして、トヨタの場合、協力工場はデンソー、アイシンといったティア1からティア2、3といったところまで含めると世界中に何万社とある。

調達部門はこれまで、大きな災害であっても欠品しないようサプライチェーンを整備してきた。取引のある部品会社の名称、作っている製品、代替できるとしたらどこの会社になるのかといったデータをすべて持って、マップにしている。生産・調達部門の対策会議の大きな目的は部品の欠品を防ぐことにある。

生産部門と調達部門がサプライチェーンのマップをもとにして、生産ができない部品工場を特定し、代替生産の計画を立てる。そして、トヨタの組み立て工場までの物流ルートを確立する。これが主な目的だ。

対策本部の会議に出てくる参加者は生産調査部、生産管理部、生産技術部、調達本部の幹部とスタッフ。加えて、販売、総務、人事、広報といった部署から適宜、参加する。

参加者はそれぞれの部署から選ばれたメンバーだが、誰に言われなくとも朝倉が座長に就くのと同じように、「対策本部の大部屋ができた」と聞いたとたんに、自ら姿を見せる男たちがいる。

何度も危機対応をこなしてきた不動のメンバー

阪神大震災、リーマンショックといったかつての危機以来、何度も危機対応に就き、対策本部の不動のメンバーになっている男たちだ。彼らは自分が何をすればいいかを熟知している。何が起こっても、決してパニックに陥ることなく、適確に処理していく。

当たり前のことだけれど、危機管理、対応は危機のさなかにやる。新型コロナ禍であれば、自分や家族が感染するかもしれない状況のなかで仕事をしなければならない。そうした時に力を発揮するのは場数であり体験だ。

「東日本大震災の時はこうした」「台風19号の洪水対策はこうだった」と体験があれば迷うことは少ない。