「私たちにとって危機は変化のひとつです」

連載では主に、この4人と、TPS本部出身で現在は情報システム本部長の北明健一に取材した。加えて、トヨタの生産現場の保全を担当する男たち、三河弁丸出しの愛知県上郷工場長、斉藤富久、同じく、同工場の土屋久、保田浩生、高橋洋一。また、牛島信宏(生産調査部)、泉賢人、八尋新(ITマネジメント部)にも話を聞いてまとめた。

平時であれば取材協力者への謝辞は最後になるが、なにしろ危機のさなかである。危機対応にあたる彼らは寝る間を惜しんで働いた。それなのに、何度も取材に答えていただいたので、謝辞は冒頭に置くことにした。

さて、友山は「トヨタでは危機を次のように理解しています」と語る。

「私たちにとって危機は変化のひとつです。しかも、大きな変化のことです。ですから、災害でも、リーマンショックのような経済危機でも、そして、今回のような感染症による危機でも大きな変化が来たと認識して、対応すればいい。

私たちはトヨタ生産方式(TPS)にのっとって仕事をしています。TPSが真価を発揮するのは、世の中が大きく変化する時なんです。環境の変化に柔軟に迅速に対応する方式ですから、日ごろ、やっている仕事の仕方が問われると思っています」

危機管理とは、すでに起こってしまった災害などのトラブルに対して、事態が悪化しないようにマネジメントして復旧を目指すことだ。

一方、リスク管理という言葉がある。こちらは、起こりうる災害などのトラブルに備えておくための活動を言う。
友山の説明によればトヨタではトヨタ生産方式を利用して平時のリスク管理を行い、危機が来ると、同方式の延長上の行動を起こす。危機管理、リスク管理の双方に同方式が活用されているとわかる。

トヨタが備える「6つの危機管理」

通常、世の中の組織における危機管理では6段階の手順で行われている。

①予見と予防
平時から危機に備えておく。兆候を少しでも早くとらえて予防措置を取る。
しかし、実際はなかなかこの通り実行している組織はない。個人でもやっていない人が大半だろう。危機管理のなかでもっとも難しいのが、平時における予防と準備だ。

②情報の収集と危機状況の把握
危機が起こった後、情報を集めて、何が起こっているかを把握する。ただし、情報の収集にはプロの目がいる。初めて危機に対応する人間が収集した情報では心許ない。

③危機の評価と対策の検討
危機によって生じる損失や被害を評価する。
対策を決めるためには情報を評価できなければならない。
危機対策に関わるコスト、人員を評価し、具体的なアクションを決めて、行動計画を作る。