他社と比べて幾度となく危機に直面してきた

トヨタの歴史を調べると他社よりも危機に直面している回数が多いことが分かる。

創業期は自社設計を貫いたために、なかなか自動車を作ることができなかった。やっと自動車生産ができるようになったかと思ったら、第2次大戦が始まり、工場は軍需生産に転用を命ぜられた。戦争が終わって、やっと自動車を作ることができると思ったら、そうはいかなかった。金がなくて原材料を仕入れることができなかったので、アメリカ軍のジープの修理に終始した。

なんとか生産を再開させることができたと思ったら、今度はデフレで車が売れず、在庫が増えた。泣く泣く人員整理をして、会社を存続させることはできたが、創業社長の豊田喜一郎は責任を取って退任するしかなかった。その後、高度成長とモータリゼーションで一息ついたけれど、石油ショック、輸出増大による現地生産の開始などでまた危機に陥った。

やっと乗り越えたと思ったら、阪神大震災、リーマンショック、品質問題、東日本大震災、異常気象による台風、洪水の頻発、そして、新型コロナ危機である……。

ただし、トヨタは地面に叩きつけられた時に、こぶしのなかに土くれをつかんでから立ち上がる。手のなかにつかんだ土くれをじっくりと見て、くふうして加工して生かすことで、危機から立ち上がる。

わたしたちがまず真似をすべきなのは、転んでもただでは起きないという精神だろう。これさえあれば、人は危機や失敗を乗り越えることができる。

私の誇りは「数知れぬ敗北から立ち上がったこと」

メジャーリーグ・ベースボール史上もっとも有名なニックネームを持つ選手とされているのがスタン・ミュージアルだ。

「The Man(ザ・マン 男のなかの男)」と呼ばれた彼はセントルイス・カージナルスに入団し、そのまま現役生活をまっとうしている。かつて劇画漫画『巨人の星』で引用されたのが、スタン・ミュージアルが現役を引退した時に語った言葉である。『巨人の星』のなかでは星一徹が息子の飛雄馬に語るセリフになっている。

「私の誇りは打率やホームランなどの数字ではなく、数知れぬ敗北とスランプから、その都度立ち上がったことだ」

トヨタも数知れない危機、不況、売れ行き不振、リコールなどに直面した。しかし、その都度、立ち上がって、乗り越えて強くなった。

スタン・ミュージアルのような気概を持って、危機に対処すればトヨタでなくとも、危機を乗り越えることができるし、また、その後、より強くなり、そして成長する。