国家レベルの難事業にあえて挑戦

「困難が多い事業こそ、やりがいが大きくて面白い」はマスクの言葉ですが、たしかにマスクの特徴は宇宙ロケットの開発や電気自動車の開発という、言わば国家レベルの困難な事業にあえて挑戦し、どんなに苦労をしても成功するまで絶対にあきらめないことです。

2018年7月1日、テスラモーターズは「週5000台生産」を達成しますが、マスクは即座に「週1万台生産」を掲げるなど、再び新たな「困難」に向かうのですから驚きです。

そんなマスクの執念が実り、テスラモーターズの「モデル3」は今やアメリカの高級車部門でドイツ車やトヨタのレクサスを抑えてトップとなり、世界の自動車メーカーの電気自動車シフトをけん引する存在となっています。さらにテスラモーターズの株価はうなぎ上りで、2020年7月にトヨタ自動車の時価総額を抜いて自動車業界ナンバーワンとなっただけでなく、同年8月21日には流通業界の巨人ウォルマートを抜いて3700億ドルに達するなど、凄まじい成長を遂げています。

何も持たないからリスクが取れる

スペースXの活躍も顕著です。2020年5月、スペースXの宇宙船「ドラゴン」は2名の宇宙飛行士を乗せて宇宙ステーションに到着、かつてのスペースシャトルに代わる存在となっています。

桑原晃弥『乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)
桑原晃弥『乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)

こうした技術力の高さに加えスペースXの魅力は価格の安さにあります。アメリカ政府が主導して打ち上げる人工衛星は一基あたり2億ドルを要していたのに対し、スペースXの打ち上げ価格は6000万ドルと破格の安さを実現。今や世界中からこなしきれないほどの注文が殺到しています。

しかもマスクはこれまで使い捨てが常識だったロケットを何度も再使用できるようにしようと挑戦しており、もし実現すれば打ち上げにかかる費用は燃料費の30万ドルだけになるだけに、宇宙ビジネスそのものが大きく変わる可能性もあるのです。まさに自動車と宇宙ロケットという国家規模のビジネスにたった一人でイノベーションを起こしているのがマスクという存在なのです。

南アフリカから単身アメリカに移住したマスクは学生時代、そして起業した当初も驚くほど貧しい生活を送っていますが、そんな生活も「貧しくてもハッピーなら恐れることはない」と振り返っています。何も持たないことは、リスクを取るチャンスでもある――というのが難局におけるマスクの考え方だったのです。

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