「私は決してギブアップしない」

ところが、いざ取り掛かってみると大変な苦難が待ち受けていました。スペースXは実に3回も打ち上げ実験に失敗。同時期に立ち上げたテスラモーターズでも、最初の電気自動車「ロードスター」の開発に1億4000万ドルもの資金を要しました。

スペースXやテスラモーターズの開発費用を自己資金で支えていたマスクは、売れるものはすべて売り、友人からも多額の借金をして、破産寸前に追い込まれますが、それでも挑戦をやめようとはしませんでした。彼は社員にこう言い切りました。

「私はこれまでもこれからも決してギブアップしない。息をしている限り、生きている限り、事業を続ける」。すべては「世界を救う」ためでした。

同時期に二つの大事業で成果を出す

そんな「あきらめの悪さ」がやがて実を結びます。2010年、テスラモーターズはアメリカにおいてフォード以来という自動車メーカーとしての株式公開を果たし、2012年にはスペースXの「ドラゴン」が国際宇宙ステーションとのドッキングに成功するなど、マスクは目に見える成果を上げることができたのです。

テスラモーターズの設立は2003年、スペースXの設立は2002年。同時期にここまで大きなことを二つも始めて、続けて、どちらも成果を出すというのは、普通ではなかなか考えられないことです。しかしやはり刮目かつもくすべきは「続けた」点ではないでしょうか。なぜ、これほど無茶なことを、これほどの苦労をしながら続けられるのか。

それはマスクが本気で「宇宙開発(その先に見据える人類の火星移住)と電気自動車が人類の未来に貢献する」と信じているからにほかなりません。マスクの「世界を救う」という信念は、どれほどの逆境をも乗り越えさせるほどに強いのです。彼が称賛を込めて「クレイジー」だと言われるゆえんでしょう。