「量産化」という鬼門でつまずく

ところが数年後、マスクは再び崖っぷちの苦労を味わうことになります。テスラモーターズは「ロードスター」や「モデルS」という高級電気自動車をつくることにはたしかに成功しましたが、マスクが目指す“電気自動車の時代”を切り開くためには比較的低価格で販売する大衆車「モデル3」の量産化が不可欠でした。

マスクが掲げたのは「週5000台生産」でしたが、その挑戦はあまりに過酷、あまりにつらいものとなりました。かつて盟友J・B・ストローベルが「自分たちが挑戦していることの難度を、過小評価していました。まるで迷路の中にいる気分でした」と嘆いたように、車を量産するというのは大変な苦労があるものです。マスク自身も量産化の難しさに「自動車ビジネスは地獄だ」とつぶやくほどの苦労を強いられています。

「起業家は地獄のように働くべき」

2018年4~6月期のテスラモーターズの決算は最終損益が7億ドルを超える過去最大の赤字だったことに加え、マスクが掲げていた週5000台の生産目標を同社はいつまでたっても達成することができませんでした。

結果、マスクは工場に泊まり込む日々を余儀なくされ、マスコミからも散々叩かれます。それでもマスクはこう言って自らを鼓舞し続けたのです。「いまだに片足は地獄に突っ込んだままだが、このカオスからも、あとひと月もすれば解放されるだろう」

どこまでもめげない人です。

テスラモーターズの工場労働者はレッドブルを飲みながら1日12時間働くともいわれていますが、トップであるマスク自身が工場に泊まり込み、トーマス・エジソンばりに床で寝泊まりしながら誕生日を迎えたというほどの仕事中毒ですから、社員もたまったものではありません。

マスクの若いころからの信念はこうです。「起業家は毎週100時間、地獄のように働くべき」。「超多忙であれ。起きている時は常に働く。他が週に50時間働くなら、自分は100時間働く。そうすると会社としては本来の2倍仕事量をこなせたことになります」。半端ではない逆境を乗り越えるには、これほどのタフさとあきらめの悪さが不可欠なのです。