5Gクリーンネットワークで中国は一人負け

中国は2015年の「情報シルクロード」、2017年に「デジタル・シルクロード」構想を発表、国内のハイテク市場成長に陰りがみえ、中東欧・欧州に活路を求めるようになっています。具体的には、国外の高速光ケーブル回線の敷設、情報通信技術の連携・相互交流によりデジタル技術の中国標準を拡大しようとしています。

このデジタル・シルクロード構想は、中国の輸出に占める通信機器を基盤としています。中国貿易統計によると、2007年には808億ドル(約8兆9000億円)であった通信機器の輸出額は、2018年には2427億ドル(約26兆6000億円)まで成長、輸出全体の約10%を占めるまでになっています。これは、各国の中国通信機器への依存率が高まっていることも示します。

そして、デジタル・シルクロード構想推進に当たり、ファーウェイは特に重要な役割を果たしている企業と言えます。同社は、基地局やルーター、モデム、スイッチなどのネットワーク機器で世界最大のメーカーとなっています。世界の基地局シェアは、ファーウェイがトップで約30%を占めます。スマホでも、同社の販売台数はアップルを抜き、サムスン電子に次ぐ世界第2位です。その結果、同社の地域別売上高の41%は海外向けとなっています。

5Gクリーンネットワーク政策に基づく、今回のNDAA 889条施行は、ファーウェイ含む5社を信頼できない企業と名指しし、世界市場での影響力拡大に待ったをかけた形です。当該規制は、米政府との取引を制限されるに留まり、遵守しなかった場合の具体的な罰則は明示されてはいません。しかしながら、米政府が中国IT企業の排除をうたい、すでに30を超える国と地域が参加している以上、中国企業への影響は避けられないでしょう。

日系企業へのダメージはほぼなし

これら米中貿易摩擦は、現状、日本企業に大きな混乱を与えてはいないようです。NIKKEI ASIAN REVIEWによると、米国政府と取引がある日系子会社、並びにアジア諸国の米軍施設と取引がある日系企業は800社以上あると報じているものの、取引金額が15億ドル(約1600億円)程度にとどまっており、日本の対米輸出額15兆3000億円と比較して、それほど大きな金額影響は見込まれてはいません。

対象5社の機器を使用していたNTTは、規則施行前にすべての製品を交換すると発表、早い段階で契約に問題が生じないか確認を行っています。ソフトバンクグループは、4Gワイヤレスネットワークの一部にファーウェイおよびZTE製品を利用していましたが、エリクソンやノキアへ切り替えています。結果、日系通信大手4社は、無事クリーンリスト入りを果たしています。

ゼネコン大手の鹿島建設はファーウェイ製品をいくつか使用していますが、契約更新時に代替を予定しています。

しかし、影響は米国との取引だけにとどまりません。英国、オーストラリアに加え、今後インドも国家安全保障の懸念を理由に、中国IT企業を5G計画から排除する見通しを発表しています。

これまで5Gに関わる多国籍企業は、グローバリズムの中、ビジネスの利益を追求したサプライチェーン構築を行ってきましたが、情報通信は国の安全保障と不可分な領域である以上、今後は国家の利益という別な軸からも継続的見直しを迫られることになりそうです。

【関連記事】
「批判は差別なのか…」中国習近平に侵略されたオーストラリアから日本への警告
「ファーウェイ採用は狂気の沙汰」米国がそこまで排除にこだわる背景
飲食倒産地獄真っただ中の船出…「びっくりドンキー」新業態はファンを掴めるか
「どうやら送り主は中国」個人宅に送られてくる"ナゾの種"の意外な目的
台湾企業に後れを取ったサムスン「敗因は文在寅だ」