このように最初は設備やハード面で準備に手間取りましたが、オンライン会議そのものには100%というくらい違和感はなかったですよ。僕はラジオやテレビもやりましたが、メディアが違っても、伝えるときに大事なことは変わらない。

人に伝えるときに大切なのは、メディアの向こう側にどんな人がいるのかを想像してわかりやすく伝えることです。ラジオショッピングは商品が見えません。

例えば、目がご不自由な方は日常どうされているでしょうか。心の目で見ていらっしゃる。そう思えば、商品を想像できるよう、自然に伝え方を工夫しますよね。

メッセージは、相手が受け取ってこそ「伝わる」

要は、自分の伝えたいことだけを「伝える」のではダメ。メッセージは、相手が受け取ってこそ「伝わる」のです。これはコミュニケーションの基本で、どんなツールを使っても同じです。そのことがわかっていれば、急にオンライン会議になっても動じることはないはずです。

残念ながら、日本人はコロナ禍の前からコミュニケーションが苦手なように思います。国会の審議や記者会見などを見ても、原稿を読んでいるような言葉はいくら聞いても心に響かないときがありますね。自分の言葉で話すには、自分は「何を」伝えたいのか、「なぜ」そのことを伝えたいのかをはっきりさせることが重要です。

テレビショッピングでも、自分が伝えたい商品を勉強し熟知していないと、いくらトークのテクニックがあっても相手には響きません。逆に言うと、「この商品はこういう理由でみなさんの役に立つ」と明確に示せるなら、表現が多少うまくなくても注文をいただけます。

本気度も重要です。いざ話した後、向こうから質問があって「そこはわかりません」と自分の考えを話せないようでは本気度が疑われます。「なぜこれを伝えるのか」というミッションと、「本気でこれを伝えたい」というパッション。この2つがあってこそ、言葉が自分のものになるのだと思います。

ミッションとパッション、その次にようやく技術が活きてきます。長年遠隔で商品を販売してきた僕が意識していたのは話の展開です。テレビショッピングで商品の魅力を伝えるときに、性能や価格などの話と、どう役に立つのかというソフト面の話を混ぜるのは厳禁。混在させると、人間の脳はついていけずに理解力が落ちてしまう。もちろん機能もソフト面も重要ですから、そこを分けたうえで話の順番を考える必要がある。

いわゆる起承転結でもいいですが、僕は世阿弥の「序破急」を参考にしていました。序は導入、破は展開、急は結論。シンプルですが、これを意識すると話の順番をつくりやすかったです。

世阿弥は「一調二機三声」が大切だとも指摘していました。この言葉は発生するための3つのステップを意味しています。まず声の張りや高さを心と体の中で整えて(一調)、次に声を出すタイミングを計って(二機)、そして最後に声を出す(三声)。