手口もひどい。大手証券会社のある女性は1月中旬、出勤してすぐに上司から呼び出され、「あなたの仕事はない。明日から来なくていい」と言われ、入館証を取り上げられたという。
「明らかな違法行為。労働審判に訴えれば必ず勝てます。ですが、いち早く次の職を探さねばと考えて、泣き寝入りしてしまうケースが少なくない」
雇用崩壊を防ぐため、古山さんは「こういうときこそ、労使の協調を目指すべきだ」と訴えている。
「人事担当者だって本当は首切りなんてやりたくない。互いの事情を理解しあう必要があるはずです。会社と組合が対立を続ければ、共倒れになるだけですよ」
一方、人事コンサルタントの城繁幸さんは「早期退職で優秀な人から辞めていくことは常識だ」と話す。
「日本の正社員は法律でガッチリと守られています。早期退職は日本の企業が人員削減をするために採れるギリギリの方法です。しかし人事政策としてはあまり有効ではありません。ムダをそぎ落として筋肉質にするつもりが、筋肉ばかりがそげ落ち脂肪が残るという『リバウンド』になる恐れが高い」
負のスパイラルを断ち切るためには、「正社員の既得権」にメスを入れるしかないと城さんは話す。
「そもそも『早期退職』に脅えるということが、労働市場が歪んでいることの証拠です。いまの転職市場では35歳が事実上の上限で、金融など一部の職種を除いて、中高年の転職は非常に難しいのが現状です。これは職務給ではなく、年齢給の占める割合が高く、中高年の正社員の給与が能力に対して割高だから。年齢給を全廃し、同一労働・同一賃金が実現できれば、40歳でも50歳でも、不安を抱くことなく自由に転職できるようになります」
中高年が会社にしがみついている限り、「派遣切り」も「雇い止め」も解決しない。「雇用崩壊」の波を食い止めるためにも、雇用の流動化が必要だという。
「労働組合は雇用を守るといいながら、既得権の強化を推し進めているだけ。人材の適正配置が進めば、企業の生産性も向上し、全体のパイも増えるはずです。このままでは『終身雇用』『年功序列』という日本型雇用システムごと、日本経済が崩壊しかねません」
企業の破綻が相次いでいる。自分の雇用だけに目を向けていると、足下をすくわれかねない。頼れるものは、自分だけ。そんな過酷な時代の到来が、ひたひたと迫っている。