「社内の出世格差は、これから広がっていくでしょう。いや、広げていかざるをえない」

上場する大手自動車部品メーカーの人事部長は話す。トヨタ自動車をはじめ、わが国自動車産業は“総崩れ”の状況にある。

自動車が売れない影響は、規模の小さい部品メーカーほど深刻だ。しかし、この自動車部品メーカーは「正規社員のリストラは、いまのところ考えてはいない」(同人事部長)と言う。

「現在の不況を脱した後を考えれば、正社員を切るわけにはいきません。環境技術など、次のチャンスは生まれてきている。むしろ、硬直していた昇進昇格システムを変えるには、いまが好機と捉えています」(同)

この部品メーカーでは、10年以上前に成果型賃金制度を導入したものの、昇進昇格に関しては年功序列が色濃く残っていた。

ちなみに、成果主義は、主に1年間の成果が評価されて翌年の処遇(賃金)など年収に直結する。一方、昇進昇格(出世)は本人が有する指導力や洞察力などの人間的な能力が基準となる。短期的な実績(成果)評価と長期的な能力評価とが、同時に走っているのは日本企業では一般的だ。

年功色が強かったこの部品メーカーでは、幹部ポストが中高年で詰まってしまい「若手の登用が遅れ、滞留が起きている」(同)そうだ。能力評価が高く、本来なら管理職に登用すべき若手が登用されない状態が続いている。社内からは「ブルペンエースを早く、実戦で使うべき。いまのような試練を経験させてこそ、人は育つ」といった意見が人事に寄せられている。

問題なのは、年功制で上がった現在の中高年幹部をどうしていくか。特に、部下を持たない管理職には、やる気がない人、能力が低い人が多い。さらに、好況時に中途で採用したものの、パフォーマンスを発揮できていないままポジションは高い幹部もいる。

これら賃金の割にローパフォーマーの幹部たちを、降格や異動により人事部はこれから整理していく考えだ。中高年、若手とも同期であっても、ポジションも処遇も格差は広がる。

経済環境に恵まれ会社の業績がよかったときに格差を広げるのは難しいが、「現在のような危機的なときは、逆に思い切った人事政策を打てるチャンス。筋肉質で闘える体質に当社は変われるのです。会社は人を大切にしないと反論する人はいるでしょうが、そういう人に言いたい。あなたはこれまで、全力で仕事をしていたのか、と。義務を果たさず、権利ばかりを主張する人で溢れたら、会社は潰れてしまう」(同)。