ただ、事業環境は厳しい。11月を境に、どの企業を回っても「減産」の話ばかり。新規の設備投資の話題はまったくなくなった。現在、施工中の案件にストップをかけるようなものさえある。4月以降に関しては、まったく受注の見通しがつかない状況だという。
「取引先を一緒に回っている50代前半の部長は『今度来たらわからねえぞ』と冗談めかして話していました。いまのところ早期退職の勧奨はありませんが、募集人員を埋めるためには『肩たたき』があるかもしれない。僕らと部長たちとでは、危機感が違うのかも」
同社では早期退職の募集人員を増やすため、対象年齢を45歳から40歳に引き下げている。さらなる引き下げでBさんも対象になることがあるかもしれない。そうなれば、チャンスだという。
「いまの仕事や待遇にまったく満足しているわけではありません。機会があれば、自分の能力をもっと活かせる場所で働きたい。自分はともかく、仕事のデキる人にとって早期退職はチャンスのはず」
闇雲な人員削減は「リバウンド」を招く
2人はまだ恵まれているほうだろう。世界経済の急速な悪化により、雇用調整の波は非正規社員から正社員へと確実に移っている。
「正社員の退職強要はかつてない勢いとなっています。これは未曾有の危機です」
連合東京の副事務局長・古山修さんは、そう指摘する。給与の遅配や減額、ボーナスカット、解雇。組合活動に関心の薄かった人たちも、背に腹は代えられなくなったようだ。古山さんは昨年だけで、20以上の労働組合の結成を手伝った。
昨年9月の「リーマンショック」以降はとくに金融業界からの相談が増えた。外国人の幹部社員が駆け込んでくる例もあった。
「1997年に山一証券が破綻したときはメリルリンチをはじめ他の証券会社に移ることができた。いまはそれができない。深刻さは、ひどい」