常識を疑った新発想「道法スタイル」に同業者や専門家も喝采
常識とは真逆の「道法スタイル」は、最初から受け入れられたのだろうか。
「元の職場では、『内容が間違っている』と受け入れられず、最終的には現場から外されました。いわゆる左遷です。組織としてはもともと保守的なところがあるし、それまでの農業の常識とは真逆のことをやっていたからだと思います。でも、反対されるぐらいでないと、新しいことはできないという思いがあったし、何より現場でわかった真実を伝えたいという気持ちがどんどん強くなったので、勤続28年(52歳)で退職し、その後独立しました」
その熱い思いに共感する道法ファンも増えている。そのひとつが、筆者が出会った台湾のパイナップルの、生産農家だ。
「2019年に、大阪中央卸売市場から相談がありました。『毎年3月から6月にかけて、台湾から輸入しているパイナップルに特徴がなくて売り上げが芳しくない上に、気温が上がると腐敗果が増え、品質が安定しない』というのです」
かつて道法氏には、台湾でパイナップル栽培の指導をした経験があった。その当時のポイントは、「肥料をやらない」ことだった。肥料をやると、それが植物内でアンモニアに変わるため、エグミが出る上に腐敗しやすくなるのだ。
その道法氏の経験と、依頼者の「輸入品の売り上げを伸ばしたい。輸入果物でも儲かることを次世代の後輩に残したい」という思いが合致し、道法氏は台湾へ行くことになった。
現場に行ってみると、たくさんの肥料が使われていた。これでは植物ホルモンのバランスが崩れてしまい、徐々に品質が落ちていく。そこで、無肥料の「道法スタイル」での試作を提案した。
「『経営に影響が出ない範囲で、全体の1割ぐらい試してみましょう』という提案をしました。優秀な会社や団体ほど、1、2割は新しいことに挑戦します。それもできないなんてだめじゃないのと、彼らのハートをくすぐりました。台湾の人たちは、ただ儲けるだけではなく、『いいものを作って、喜んでもらって、儲けたい』という気質が強く、日本人と似ているところがあるなと感じました」
肥料をやめ垂直仕立てにするとパイナップルの糖度が12.8度→18.8度へ
肥料をやめ、バンドで挟んで垂直にしてみると、すぐに変化が表れた。花の数が増えたばかりか、収穫の3カ月前に、葉が一斉に紅葉したのだ。そして収穫1カ月前に従来の栽培法のものと、道法スタイルの果肉を比較すると、中心部の糖度は、従来の栽培法のものが12.8度だったのに対して、道法スタイルのものは18.8度と、明らかに違いが出たという。果実の食味もよく、完熟した状態で芯まで食べられるパイナップルができた。
「道法スタイル」のパイナップルは、2020年から日本への出荷を開始。出荷した6500ケースは飛ぶように売れた。「無肥料のほうがよいものができる」という確信を得た農家は来年、収穫のタイミングまで管理を徹底し、出荷量も一気に2万7300ケース(前年比420%)まで拡大させる計画だ。
身近な家庭菜園から、プロ向けの果樹栽培まで、「道法スタイル」を求める人たちは幅広い。道法氏は現在、食品や農業関連の企業4社の顧問をしながら、地方自治体(熊本県の水俣市と芦北町)の依頼で技術セミナーの講師もつとめる。
収穫量や味がよくなるだけでなく、「無肥料・無農薬」という自然環境に配慮した「道法スタイル」は、安全で持続可能な栽培法として、いまの時代との親和性も高い。
また、道法氏の「常識を疑い、誰もやらないことに挑戦する。そして困っている人を助ける」というスタンスにもブレはない。栽培法だけでなく、その姿勢からも学ぶところは多そうだ。