逆転の発想から生まれた革命的な栽培法

「もともとは、40年ほど前に広島でミカン栽培の技術指導員をしていた時、ミカン農家への指導がうまくいかなかったのがきっかけでした」

ミカンなどの果樹栽培では、「隔年結果」といわれる、1年おきに豊作と不作が繰り返される現象が、長年の課題だった。対策としては「肥料や堆肥をやる」ことが不可欠とされ、枝の剪定せんていは「立ち枝(真上に伸びる枝)を切って、横枝(横に伸びる枝)を残し、日当たりや風通しをよくする」ことが正しいとされてきた。

地域の農業を支える技術指導員として、隔年結果のままの状態では、生活がかかっているミカン農家に申し訳ない。そこで4年目に、全て逆のことをやってみようと思いついた。

まずは剪定の逆バージョン。「立ち枝を切らない」のである。立ち枝には、元気な花が咲き発芽も起こる傾向にある。植物の特性上、発芽した分だけ根っこも出る仕組みなのだ。それに対して横枝は、弱い花が多く咲き発芽しない。そして発芽しないので根っこも出ない。それが隔年結果の理由のひとつになっていた。

次に、ミカン苗木の育て方を見直した。それまでは、3本の新芽を「斜めに」誘引するのが常識とされていた。それを、先輩のアドバイスもあり「新芽を5本にして、先端を『上に』向けてみよう」という事になった。そこに肥料をやりましょうと指導した。

「完全な失敗」が新発想のきっかけになった

垂直仕立てにしたレモンの苗木(写真提供=吉森 広)
垂直仕立てにしたレモンの苗木(写真提供=吉森 広)

ところが、指導した農家の中に1人だけ、言うことを聞かずに新芽だけはなく枝ごと垂直に縛った人がいた。当然、葉っぱ同士は密着し、風通しも日当たりも悪くなる。そればかりか、「手間がかかるから」と、肥料もやらなかった。

しかし、それが驚きの結果をもたらした。その人の苗木が一番よく育ち、味も最高のミカンがとれたのだ。この実体験をきっかけに、道法氏は新発想での果樹と野菜の栽培法を研究することになる。