「植物ホルモン」に着目、悪条件の苗木が、なぜ一番育つのか?

肥料もやらず、日当たりも風通しもよくない苗木が、なぜ一番よく育ったのか。

道法氏が着目したのは「植物ホルモン」だ。当時すでに「植物ホルモン」の働き自体は広く知られていたが、それまでは、「植物ホルモンを人工的につくり(農薬登録されている植物成長調整剤がこれにあたる)、それをどう使うか」というアプローチが主流だった。

ところが一番よく育った苗木は、人工的な植物ホルモンなど投与していない。そこで道法氏が導き出した仮説は「植物に内在している植物ホルモンが、大きく作用したのではないか」というものである。人間が、「交感神経」と「副交感神経」のふたつに分類される自律神経のバランスを整えることで、健やかに過ごすのと同様に、「植物自らがつくる植物ホルモンのバランスが整うことで、よく育つ」という、それまでにない発想だった。

果物や野菜の生長に関わる植物ホルモンとして代表的なものは、促進型の「ジベレリン」「サイトカイニン」「オーキシン」と、抑制型の「エチレン」「アブシジン酸」の5種類だ。

まず発根や結実性を高める「オーキシン」だが、これは重力に従って上から下へ移動する。そこで、枝を垂直に立てることで「オーキシン」の移動効率を高めて、発根量を最大化させたのだ。

根の量が増えると、細根部分でつくられる「ジベレリン」「サイトカイン」の量も増える。それが導管を通って地上部へと移動し、枝葉の生長を促して果物や野菜を大きく生長させるのだ。また、「エチレン」の効果で病気や害虫が防げるとともに、味もよくなるという。

1本あたりの収穫量30キロだったブドウが道法スタイルでは52キロに!

そして植物ホルモンのバランスを整えるために重要なのが、野菜の「仕立て方」だ。

基本は「枝を垂直に立てる」だが、スイカやメロンなど果実が大きくて垂直にするのが厳しいものはツルを束ねて2本の「棒」で挟んで一方向に伸ばしたり、枝をひもで吊り下げたりする。ただ、道具はいずれも支柱や麻ひもといったホームセンターで調達可能なもので、特別なものは何もいらないし、仕立てる方法も至ってシンプル。いろいろな野菜が上を向いて垂直に立てられている様子はとてもユニークだ。

垂直仕立てのサツマイモ(写真提供=池田千恵美)
垂直仕立てのサツマイモ(写真提供=池田千恵美)

土づくりも特徴的だ。肥料も有機物の堆肥もやらないし、地中にある石も取り除かない。むしろ石は、根を刺激して植物ホルモンの「エチレン」を増やしてくれるため、積極投入したほうがよいそうだ。

そんな栽培法を提唱する道法氏のもとには、国内外から講演や技術指導の依頼が舞い込む。「家庭菜園を始めたい」というお手軽なものから、農家や大学、JAや地方自治体まで、教えを求める顔ぶれも幅広い。

山梨大学では、技術指導だけでなく、ブドウ栽培の研究も支援した。学内の畑で、同条件の苗木を通常の栽培法と「道法スタイル」の2パターンで栽培し比較したところ、通常の栽培法のブドウの収穫量が1本あたり30キロだったのに対して、道法スタイルのブドウは52キロもあったという。