プレゼンを受けるとき、トップは何に1番突き動かされるか。

「企画内容ももちろんありますが、やはり人です。チームのやる気と熱意です」

と後藤氏はいう。エコナのマヨネーズタイプの開発では開発担当者たちの熱心な説得を受け、反対からGOに転じている。マヨネーズ市場におけるキユーピーの牙城は食品メーカーの味の素でも容易に崩せない。その経緯を知る後藤氏は当初二の足を踏んだ。

「体に脂肪がたまりにくいエコナを使ったマヨネーズなら値段は高くても、価値を認めてくれる固定客を必ず創出できると、見事に説得されました」


 盛り上げ型の後藤氏も、開発途中の案件にNGを出したことがある。企画書も、データもよく揃っていたが、自身の生活感覚とどこかずれていた。「君は自分で掃除をしたことがあるかい」「ホコリはどこにどうたまるか知っているかい」。自ら掃除を行い、自社製品は必ず試す現場主義の後藤氏が突っ込みを入れると担当者はしどろもどろになった。

「これは出すべきでない。納得できない以上、中止させました。NGは辛くても、それがトップの役割です」

GOのときはアナログで積み上げ、NGのときは逆にデジタルに白黒決着をつける。そのメリハリが社長在任中、7期連続最高益更新を可能にした。

「プレゼンのときは、直観と論理の両方を働かせますが、おそらく主観のほうが多いでしょう。客観データはいいことしかいわないので、顧客と同じ主観を持つことでデータの矛盾を見抜いたりする。トップ自身、盛り上がっていったものは成功の確率が失敗の確率より大きいように思います」

トップを巻き込めば、大きな資源を活用できるようになり、議論を積み上げれば、失敗要因も補完されていく。花王の堅実な強さはプレゼンにも表れることを思い知らされる。

(神村大介=撮影)