「きのこ」のほうがチョコ比率が高い

次はチョコレートと生地の割合を見てみましょう。ちなみに1個あたりの重さは、5%ほどたけのこのほうが軽いですが、そこまでの違いはありません。(図表4)

チョコレートと生地の割合

意外にも、きのこのほうがチョコレート比率が高いことがわかります。たけのこはきのこにくらべるとチョコが少ないので、少し損した気にもなるかもしれませんが、甘さをベースとしたやわらかいクッキー生地とともに砕かれ一気に口に広がる力強さを、たけのこは持っています。

きのこは、クラッカー部分がしばらくの間ガリガリと硬いため、味の広がりが遅くなり、チョコレートが溶けるまで味のシグナルを待たなくてはいけない……おいしいものを待てる、余裕のある大人にならないと好きになれない、というところでしょうか。

どちらも生地にチョコレートがかかっている食べ物ですが、きのこのように硬いクラッカーとチョコレートは混ざりにくく「不均一のおいしさ」で、たけのこのように生地がやわらかく混ざりやすいおいしさは比較的「均一のおいしさ」とおおまかに分けられるでしょう。実は、実際の製品はもっと複雑になっていて、どちらも2種類のチョコレートのコーティングとなっており、口内での味の変化を楽しませてくれます。

「たけのこ」はミルクの濃厚感が特徴

チョコレートには違いがあるのでしょうか? チョコレート部分は2層コーティングのため分離して測定できないのですが、2層を混合したときの味わいを参考にしめします。(図表5)

チョコレートの味の比較

たけのこのほうが、甘さは弱いですが苦味が少ないため、総合的には優しくマイルドでミルクの濃厚感を楽しむことができます。このことからも、たけのこは多くの人が子どものころに好きな味と認識するであろうことがいえます。

髙橋貴洋『「うまい!」の科学』(イースト新書)
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これらの分析結果から考察すると、もしかすると、2019年にきのこ派が勝利を収めたのは、投票した年齢層に子どもが少なかった可能性もあります。実質的な子どもの数の減少も直結するでしょう。また昔からある定番お菓子ゆえに、今の子どもに対するマーケティング訴求ができていないのかもしれません。これは昔懐かしい駄菓子が淘汰とうたされ、姿を消していっていることにもつながっているかもしれませんね。

我々は成長するにつれ、段々といろいろなものが食べられるようになります。食経験が豊富になってくると、歯ごたえやクセのあるもののほうが、風味のリズム感が変化し、それがおいしいと感じるようになってきます。しかしながら思い出の味として、大人になってもやっぱりこれがいいんだ! というおいしさも存在します。あなたは成長してどちら派になりましたか? それともずっと一筋でしょうか? 比較してしまうから論争が起きてしまうのですが……。しかし、比較するから良さ・悪さもわかるのです。

それは私たちの永遠のテーマであり、もし派閥が変わったらそれはおいしさの評価軸の成長のあかしかもしれません。

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