コンテンツは8秒で見切りをつけられる

1.殿様化

長いステイホーム期間の過程で物事の動きが、自ら出向く「ご奉公型」ではなく、物事の方からやって来てくれる「殿様型」へ、多くの点でシフトしました。

消費の面でも、Uber Eatsに象徴される宅配食の活況をはじめ、これまで「お店まで食べに行く」レストランも、苦境を乗り越えるべく「テイクアウト」を始めました。中にはこれまでは門外不出とされてきたレシピを公開し、自炊で楽しんでもらおうとする店も現れました。

これも、元々はデジタルネイティブ、スマホネイティブと呼ばれ、大量の情報やコンテンツが安価もしくは無料で楽しめることが小さい頃から当たり前だった若者世代が、企業からすると「難しい消費者」と言われてきたことと構造が符合します。Vision Criticalの調査によるとZ世代(1995年以降に生まれた若者)の1つのコンテンツの平均消費時間は8秒で、一度に平均5つのスクリーンを使用する。言い換えれば8秒で見切りをつけて次を探しに行く。まさに「多くの陳情を裁く殿様」のような状態です。

Z世代の1つのコンテンツの平均消費時間

選択肢も多く、便利にも慣れ、高い情報リテラシーに基づいた商品やコンテンツの見切りが早いなどの「殿様的な消費行動」は、若者のみならず多くの世代に「コロナだから仕方がない」という大義とともに一般化しつつあるように感じます。実際、コロナ禍が終わった後でも元の勤務や通学にはもう戻れないという意見も多いようです。

「資産を自社で囲い込み、ニーズがある人に取りに来させる」ことを前提にしたビジネスモデルや就労形態が崩れ、「主導権が顧客にある前提で設計された商品・サービス」がいよいよ一気に加速し、不可逆な変化としてコロナ後も残るのではないでしょうか。

主導権が自分たちにある前提で発想する企業や企画は、引き続き見直しを迫られるはずですし、コロナ後に再び主導権が元どおりになるとは思わない方がいいでしょう。

自由な毎日には「オンデマンド動画」より「ライブ配信」

2.時決ニーズ

コロナ禍は多くの人に「時間の裁量」を与えました。

忙しさは変わらなくとも、在宅時間が増えたことに比例して「それぞれのタスクをどのタイミングで処理するか」の自由度は上がったはずです。昼食後に一度風呂に入ったり、育児をしながら資料を作ったり、好きなコーヒーを入れながらミーティングに出たり。

自由ということは、社会規範により決められていた「一律の時間」で生きる度合いが減り、個々人が「それぞれの時間」を生きる度合いが増えたとも言えます。

ただでさえ外出が制限されて曜日感覚や時間感覚も溶けていく中で、“自己管理力格差”が顕在化したのではないでしょうか。自己裁量で使える時間を稼ぐための「時短」から、増えた自由度の中で「いつ何をやるのかを意思決定する」という「時決」へ、人々のニーズはシフトしていっています。

同時に、時決を促す取り組みにも注目が集まっています。電通若者研究部も加盟している大企業の若手中堅社員による実践コミュニティ「ONE JAPAN」では、リモートで生活の自由度が増える中、あえて昼食を決まった時間にZoomで一緒に食べる「ONE JAPAN食堂」という取り組みを自粛期間中ずっと続けています。これもつながりを実感できるだけでなく、「昼食を食べるタイミングを決める」ことに、時決の価値があると感じます。

インスタグラムでの毎朝のヨガレクチャーのライブ配信が好評なのも同じで、「録画して各自オンデマンド」に楽しむのではなく、あえて「タイミングをそろえる」行為だからです。

コロナ禍後もリモート勤務を制度としてスタンダードにしていく企業が出てきているように、ますます自己管理力の求められる時代になり、いつ何をやるのかという「時決」のスキルや、それを補うサービスに注目が集まるでしょう。