したがって、データ・ドリブン・マーケティングでは、全体的な構造力や設計力を持ち、多様な接点から集めたデータを活用して学習サイクルを素早く回しながら個人やスモールマスに対して適切な価値を提供できるプレイヤーが優位に立てる。価値ベースで対価を得ることにより、最終的に安い価格に落ち着く世界とは全く異なる経済性に持ち込める可能性もある。
こうしたパラダイムシフトが起こっている背景として、大きく2つの要因が挙げられる。
「スモールマス」市場の登場——状況によってニーズは多様
第一に、生活者のライフスタイルや嗜好性が多様化し、マス市場が縮小していることだ。ライフスタイルや嗜好性が多様化すればするほど、より多様なオケージョン(場面・状況)が出現し、ニーズが多様化する。その結果、マス・マーケティングの市場は縮小し、代わりに多くの「スモールマス」市場が形成されていく。
従来のマス・マーケティングでは、例えば「20代女性」というように属性により特定のターゲットを定めて広告を打つやり方が主流だった。その際にはオケージョンが固定され、ターゲットが家でテレビを見ていることが前提となっていた。
しかし現実はというと、同じ20代女性でも時と場合によって、同じ製品やサービスであっても求めるものは異なる。例えば、お酒を飲むにしても、上司やクライアントの会食で気を使わなくてはならない席か、気のおけない仲間と盛り上がっている飲み会なのか。あるいは、家でのんびりと1人でくつろいでいるのか、女子会を開いて会話を楽しんでいるのか。状況によって、選ぶお酒の種類も、飲み方も変わってくる。
このようにオケージョンで切り出した「スモールマス」に焦点を当てて、適切なタイミングで、適切なメッセージを訴求すれば、ターゲット顧客の行動を変えられる可能性がある。データを活用して適切なパーソナライゼーションをすることにより、高い価値を生み出せる土壌が整いつつある。
データ経済圏の誕生——個々人の行動をどこまで捉えきれるか
第2の要因は、デジタルチャネルが多様化し、IoTの浸透により、データ量が加速度的に増加し、データ経済圏が構築されていることだ。
パーソナライゼレーションにおいて重要なのが、個人の行動データを取得し分析することだが、現在はスマートフォン、ウェアラブルデバイス、カメラ、センサーなど多様なデバイスが普及し、取得できるデータ量が加速度的に増えている。その中でより重要になってくるのが、豊富なデータを用いて、個々人の行動をどこまで捉えきれるかである。
スマートフォンなど特定のデジタル・デバイスの閲覧状況や、EC(電子商取引)での購入実態は分かるとしても、それだけでは断片的な行動データに過ぎない。自社のデータと他社が持つデータをつなぎ合わせた方が、その人のカスタマー・ジャーニー(顧客の行動プロセス記録)全体像に迫り、購買に至る心理変化や行動変化をより多面的に理解することが可能になる。このため、企業間での連携が加速し、「データ経済圏」の形成が進み始めている。