「検察OBの抗議」を批判する産経社説の不思議な主張
産経新聞の社説(5月19日付)は「改正案見送り 検察のあり方本格議論を」との見出しを付け、こう主張する。
「改正案をめぐる国会での議論は全くかみ合わないままだった。国民の理解は得られていない。見送りの判断は妥当だろう。この機に検察のあり方について本格的な議論を深めるべきだ」
本格的な議論を主張するのはいいが、「特例規定の削除」を求める読売社説に比べると、この主張は弱すぎる。振り出しに戻って最初の議論から始めろというのは、「子供だましだ」と批判されても仕方がない。
産経社説はこうも指摘する。
「野党の『三権分立に反する』といった批判や、検察OBらのあたかも『指一本触れさせない』と取れる姿勢も極端だ」
この指摘は納得しがたい。前述したように検察の立場は司法側にかなり寄っている。それゆえ、三権分立が危うくなるのだ。この産経社説を書いた論説委員は、検察という組織の在り方をどこまで理解しているのだろうか。ここは読売社説を見習うべきである。
検察OBへの批判も理解しがたい。彼らの抗議がなかったら、安倍政権は改正案をその数の力で押し通していたはずだ。今回の産経社説の主張の意味するところが分からない。説得力に欠ける。社説を書くうえでの筆がスムーズに運んでいないからだろう。
論説委員の仕事で忘れてはならないのが、新聞各紙の社説をよく読み比べて自社のスタンスならどう書き上げるかをしっかりと考えることだ。それができてはじめて読者の支持が得られる。
かつて産経新聞社の論説委員室には、石井英夫さん(87)という名コラムニストがいた。カエルによく似た表情が社内で親しまれ、「ケロさん」と呼ばれていた。35年間、1面のコラム「産経抄」を毎日書き続け、菊池寛賞を受賞した。産経の読者だけでなく、他紙にもファンが多かった。産経新聞の論説委員には、石井さんの軽妙な筆致と見事な論理展開を学んでほしい。今回の社説は残念である。