人材育成にお金をかけられるようになった

その結果、製造業の現場では、一定の技能教育を受けた人材が請負企業の適切な管理の下、自己のキャリアアップを形成しながらラインの作業に当たるという、製造請負の人づくりのパターンが標準化され、定着していくこととなりました。

さらに派遣労働者の無期雇用転換ルールや同一労働同一賃金、そして働き方改革など、労働行政側が雇用環境の改善に本腰を入れはじめたことも請負業界の健全化にプラスに作用しているものと思われます。

こうしてリーマンショックを境に製造業の請負・派遣のあり方が変わり、教育・育成の大切さが認識されるようになりました。日総工産としてみても、メーカー側の意識が変わってきたことで、人材教育や管理に一定のコストをかけられるレベルまで利益率も向上してきました。

派遣・請負業界には人材育成が不可欠だと考えてきた日総工産にとっては、ずっと待ち望んできた時代が到来したといえそうです。

日本の「ものづくり」を守る役割がある

さて、戦前から産業の近代化を支え、戦後の復興、経済発展を牽引してきたのが、日本が長年にわたり培ってきた「ものづくり」の力です。

ところが、国内の製造現場は近年、生産拠点の海外移転による空洞化や、リーマンショック以降の生産部門の縮小といった逆風に晒されつづけています。半世紀にわたって製造現場とともに歩んできた私から見ても、現在は心配がなくても長期的には現場の技術水準の維持や技能の伝承に影響が出てくるのは間違いないと思います。

では、このまま日本の「ものづくり」は活力を失っていくのか──。

いや、ご心配には及びません。この流れにストップをかけ、製造現場の技術水準を維持する役割こそ、私たち請負・派遣事業者が担うべき責務であり、将来に向けその役割を十分に果たすことができると私は考えているのです。

私はかなり以前から、メーカー側には製品開発や技術開発に集中して取り組んでもらい、生産工程の大部分は請負事業者が引き受けますと申し上げてきました。これは従来、メーカー社員のみが有していた高度な技能を私たち請負事業者もしっかりと身につけ、「ものづくり」のレベルを下げることなく引き継いでいくという決意表明でもありました。

もちろんメーカーが生産に関わる業務をすべて外部に委ねるというのは到底無理であると思われてきましたし、私自身もすぐにこの構想が実現するとは考えていませんでしたが、リーマンショック以降、この考え方はいよいよ現実味を増してきたように感じています。