「多くの都民は自宅待機者が大勢いたと知らず」
「自宅療養→施設療養」「PCR検査陰性2回→軽症者は14日後解除」。こうした経緯は当然、都道府県や保健所を設置する市、東京23区に共有され、メディアでも報じられているが、「現場」には事実誤認や混乱をもたらせている。東京都内でも感染者数が多い杉並区の田中良区長は4月16日に配信された「文春オンライン」のインタビュー記事で、「多くの都民は自宅待機者が大勢いたと知りませんから、驚いたと思います」としている。繰り返すが、「自宅療養」の原則は3月1日付で通知されていたものだ。
厚労省は4月2日付で「軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」と通知し、それに基づいて東京都は7日からホテルへの患者移送を開始することになったが、田中氏は16日配信の同じインタビューで「(ホテルへの移送を)いきなり発表するのではなく、検討しているのなら区にも教えてほしかった」とも指摘している。
国の法律による分かりにくい仕組みが混乱を招いた
ここで、厚労省通知と東京都内の保健所の関係を少し整理しておきたい。なぜならば、メディア報道でも誤った表現が見られているが、東京都内の保健所には他道府県にはない特殊事情があるからだ。感染症対策の実施が保健所設置自治体にあるのは全国共通だが、保健所の設置主体は指定都市やその他政令市などになっており、東京都内の場合は都が設置主体である多摩地域など6つの保健所の他に、特別区である23区と八王子市、町田市にそれぞれの区市が設置主体となった保健所がある。国の法律によって分かりにくい仕組みがコロナ対策で混乱を招き、メディアの理解不足が生じる源にもなっている。
感染症法64条には、保健所を設置する市や特別区に関する規定があり、それを踏まえれば同法にある「都道府県知事」という箇所は、それぞれ「市長」「区長」となる。先の杉並区で例えると、杉並区長は「まん延を防止するため必要があると認めるときは、感染症の患者に対し特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関に入院すべきことを勧告することができる」(同19条1項)とあり、勧告に従わない場合には入院させることができる(同3項)。2月に指定感染症となった今回のコロナ対策では、東京で言えば23区や八王子市、町田市もその責務を担っているが、「国―東京都」のラインとは別に「国―23区と八王子市、町田市」というラインがあることも対応を複雑化させている。