セミリタイアをおすすめできないケースとは

とはいえ、勘違いしていただきたくないのだが、私は諸手を挙げてセミリタイアを推奨したいわけではない。「まだ、いまの立場でやりたいことがある」「現在の仕事から離れるのは未練がある」「すべてをやりきった、とは思えない」といった感情がわずかでもあるなら、「手じまい」や「撤退」はやめたほうがいい。

少し脱線するかもしれないが、ここで私の会社の奇妙な方針について触れておこう。「取引先の担当者と相性が合わなくても、こちらからはできるだけ『降りる』と言わない。ギリギリまで様子を見る」というものだ。

我が社は、私も含めて総員2名という零細ながら、その企業規模からは想像できないほど多くの企業とお取引している。長らくお付き合いが続いている取引先も少なくない。

取引が長くなると、先方で相対する担当者が変わる場面に何度も遭遇する。先方の幹部や案件の責任者とは、それまでの付き合いを通じて強固な信頼関係を築けているものの、これが現場レベルの担当者となると、一概にそうとも言えない。担当者が交代した途端、急にコミュニケーションが滞ったり、不信感が強まったりすることもある。日々の業務でやり取りする担当者との相性は、仕事のモチベーションにも大きく影響するものだ。要は「あの新しい担当者、やりづらい」というヤツだ。

ギリギリまで、自分から「降板」は口にしない

そんな新担当者Aさんがやってきてから数カ月後、弊社唯一の社員であるY嬢と私の間では、以下のような会話が交わされることになる。

Y嬢:あのさ、中川君、言いたいことがあるんだけど。
私:たぶんオレも同じこと考えていると思う。
Y嬢:なら私から言う。Aさんってどう?
私:ガハハハ、やっぱ同じこと思っていたか。あの人、ちょっとやりづらいよね。
Y嬢:そう! お得意先だから、あまり悪く言いたくないけど……。
(中略。「この前も、こういうことがあった」「あの言い方はないと思う」といった具体的な出来事について共有が行われる)
私:とはいえ、オレらに仕事をくれている人だから、キチンと対応しようよ。
Y嬢:そうだよね……。まぁ、そのうち異動するかもしれないし、会社を辞めるかもしれないから、そこまではちゃんとやろうよ。

こんなやり取りをして、しばらく様子を見るのがお決まりのパターンだ。