「チャットで仕事をすれば十分」という考え

2つめのキーワードは、「ビジネスチャットの普及」です。

2019年末に、さまざまな業界のビジネスパーソンが集まる法人向けセミナーに登壇する機会がありました。その際、「ビジネスチャットを使って仕事をしている人はいますか?」とアンケートをとってみたところ、約4割の参加者から手が上がりました。

読者によっては「まだ4割なの?」と感じる人もいるかもしれませんが、私が法人案件で定点観測的にアンケートをとり続けているなかで感覚として言えることは、ここ3年ほどで普及のスピードが上がってきたということです。あと数年もすれば5割を超え、そこから8割超まではあっという間でしょう。

チャットの普及によって、ビジネスパーソンの中には次のように考える人たちがでてきました。

「資料作成やメールの作成は、昔からとにかく堅苦しくて面倒だった。そんなことをしている時間があったら、さっさとチャットで相談し、ラフなコミュニケーションを重ねながら仕事をしていった方がよっぽど効率的だ。これからはチャットベースで仕事をすれば十分だ」

チャットが普及したことも、資料が減ることを後押ししているのです。

デジタル完結で失われる力

3つめは「テレワークの拡大」です。

「テレ=離れて、ワーク=働く」。すなわち、在宅勤務やフリーアドレス、日本各地、世界各地……。さまざまな時間や場所、勤務形態の人たちが、ネットを介してビジネスコミュニケーションを行う。こうしたワークスタイルが、これから当たり前になっていきます。

テレワークの拡大も、やはり「たとえ1枚であっても、資料を作るなんてもう面倒だ」という話につながります。

たとえば以前、在宅勤務をしている受講者さんと話す機会があったのですが、家にそもそもプリンターがないと聞いて驚いたことがあります。

職場との打合せは、すべてZoom(ズーム)というオンライン会議システムで行っているという話でした。遠隔の場合、資料を作ってお互いにプリントアウトし、それを手元で見ながら話そうという動機は、どうしても弱くなりがちです。

結果、資料自体をそもそも作らなくなってしまった。それで半年間続けてみたが、特に困ることもなかったので、プリンター自体をメルカリに出品して手放してしまったというのです。

以上を煎じ詰めれば、「デジタル完結」でビジネスコミュニケーションを行う人、あるいは行うことがこれからの時代に相応しい働き方だと感じる人が増えてきているということです。今後、コロナ・ショックによってこの流れはますます加速するでしょう。

私は、この「デジタル完結」「資料ゼロ」という環境が、ビジネスパーソンから「考え抜く力」を奪っているのではないかと考えています。なぜなら、私自身が、資料を繰り返し作ることによって「考え抜く力」を身に付けたからです。