「紙1枚」の制約が考える力を鍛える

私はサラリーマン時代、トヨタ自動車(以下、トヨタ)で毎日のように「紙1枚」資料を作成し、それをプレゼンしながら仕事を進めていました。

当時のトヨタには、仕事におけるあらゆるコミュニケーションについて、「紙1枚」を携えて実施する企業文化がありました。

企画書、報告書、分析資料、スケジュール確認、キャリア面談など、とにかく手ぶらではコミュニケーションを行わない。何かしら手元に紙がある状態で、提案や報告・連絡・相談をする。

明文化されたルールとして決まっていたわけではありませんが、7万人の社員の大半が、このようなワークスタイルを基本動作にしていました。

資料を「紙1枚」にまとめていく。こう書いてしまえばシンプルですが、慣れるまでは本当に大変でした。しかし、自分の考えを「紙1枚」に収めなければならないという「制約」のおかげで、私は自然と、ものごとの「本質」を見極めようとする習慣を身に付けることができました。

考えをまとめてみては書き直し、また再度考えて、より適切な言葉は何かと探究してみる。そうやって考えが研ぎ澄まされていけばいくほど、一つひとつの文は短くなり、資料の枚数も減っていきました。

トヨタの「紙1枚資料」3つの特徴

ここで、トヨタの「紙1枚」資料の例を見てもらいましょう。次の図をご覧ください。

軽く眺めただけだと、他のビジネス文書と同じように見えるかもしれません。いったい何がポイントなのかというと、特徴は次の3点に集約されます。

1.「紙1枚」にまとまっていること
2.「枠=フレーム」で囲われていること
3.「テーマ」が各枠の上部に記載されていること

3つの特徴はどのように機能しているのでしょうか。

1.「紙1枚」にまとまっていること

「紙1枚」に収めなければならないという制約があることによって、あれもこれもと情報を詰め込むことはできなくなります。その結果、資料を作りながら、次のような問いが自然と浮かんでくるようになってくるのです。

「煎じ詰めると、今回自分が言いたいことは何なんだ?」
「突きつめていくと、主たる原因はどこにあるんだ?」
「結局のところ、実現に向けた最大の障壁は何だと言えばいい?」

「紙1枚」という制約があるからこそ、トヨタで働く人たちは、日々「考え抜く」ということが当たり前の日常になっているわけです。