かけ声ではなく、女性が働きやすい環境整備が必要だ

——トラック業界で女性の就労が進まない原因は何でしょうか。

お子さんのいる方だと、やはり深夜勤務は難しい。遠距離運転も同様です。長距離となると、日帰りはできませんからママさんは本当にいないですね。小さいお子さんがいればできるわけがありません。

しかし、仕事と子育ての両立は走り方によって可能です。「地場」と呼ばれる比較的近距離の輸送を担う仕事では活躍しているママさんドライバーもいます。

正直、現時点で、トラックドライバーは女性にオススメできる仕事とは言い難いです。この本でも「女性を増やしましょう」とプッシュはしていません。女性を増やすなら環境を整えてからにしてくださいよ、と言いたいですね。

元トラックドライバーの橋本愛喜さん
撮影=プレジデントオンライン編集部

そうしないと、私みたいにつらい思いをする人がいっぱい出てくると思います。女性トイレがなくて困ったり、肉体的な問題や疲労があっても休憩できずつらい思いをしたりました。だから、まずは女性が働きやすい環境を整えることが大切だと思います。

——女性の元長距離ドライバーとして、どんな変革が必要だと考えていますか。

やはり「トイレ問題」です。男性は「裏ワザ」がいくらでもあると思いますが、女性はそういうわけにはいきません。私はトイレの回数が少ない方ですが、高速道路で渋滞にハマってしまうと、もう八方塞がりです。

「トイレがあるのにスルーせなあかん!」

以前、東名高速で静岡県の富士川あたりを走っていたとき、ピクリとも動かない渋滞に巻き込まれたことがありました。ずっと真っ直ぐな見通しの良い道路だったのですが、動く様子が全く無い。でも、どうしてもトイレに行きたくなってしまって……。

もう限界、我慢できない状態になって、恐る恐るトラックを降りて、前の高速バスでトイレを借りたことがありました。その時のバスドライバーさんには今でもめちゃくちゃ感謝しています。

——コンビニやサービスエリアがあるのでは。

トイレを探すのは想像以上に難題です。至る所にコンビニはありますが、大型車の駐車枠がなかったり、あっても数が限られています。満車の場合は、路上駐車はできませんから次の場所まで我慢しなければいけません。つまり、この「トイレ問題」は「駐車スペース問題」とリンクしてくるんです。

「トイレがあるのにスルーせなあかん!」っていうのは辛かったですね。そんな中、大型車の駐車枠に普通車が駐車しているのを見ると……。なんとも言えない気持ちになりました。

今は女性ブルーカラーの増加に伴い徐々に改善されつつあると思いますが、私が現役ドライバーだった頃は、荷物の納品先の工場や倉庫に男性用トイレしかないことも多かったです。

特に製造業の現場は男性ばかりで、女性は珍しい存在でした。だから女性トイレが近くにない場合がほとんどで。周りの女性ドライバーには、やむを得ず男子トイレを借りていたという人もいます。