眠気はトラックドライバーの大敵です。眠気覚ましにコーヒーを飲めば、次は「トイレ問題」にぶつかる。生理痛だから「ちょっと休みたい」って言えない。万が一、生理でつらいと言えたとしても「それなら男性ドライバーを寄こして」と言われてしまう業界ですからね。

私自身、「女なんて寄こすな」「娘なんて寄こすな」と言われたこともありました。女性だから、非力で、技術のことなんてわかるはずないだろうって。そうレッテルを貼られてしまう。

私は幼少期から工場を経営していた父の仕事を見ていまし、家を継ぐ覚悟をした時から技術は人一倍勉強しました。大抵の質問には完璧に答えられる自負があったので、「わからないだろうから、今度は男性連れてきて」と言われた時は本当に腹が立ちました。

現場経験の少ない社員さんほど、そういうセリフを言ってくる。だからその人の目の前で、旧知の工場長さんに「いつもお世話になってまーす」って親しげに話しかけたり、ささやかな抵抗をしていました(笑)。

振り返れば人生で一番のモテた時期だったけど……

——女性だからこそ得をしたことはありましたか。

んー。正直、ちやほやはされました(笑)。それが嫌だったんです。さっきの話じゃないですが、「どうせ女性だからね、わかんないでしょ」とか「女はいいよな」と言われてカチンときてけんか寸前になったこともあります。でも、振り返れば人生で一番のモテた時期だったかもしれません。

当時は23、24歳。女性トラックドライバーは今よりさらに珍しいしいので、もう目立つ目立つ。一番忘れられないのは、「結婚しましょう」って言われたことですね。

元トラックドライバーの橋本愛喜さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
元トラックドライバーの橋本愛喜さん

——いきなり、プロポーズ!?

3日に一度ほど訪れていた得意先で働いていた方で、搬入時に徐々に言葉を交わすようになって、当時はSNSがなかったのでガラケーでメールをするようになりました。

付き合ってもないし、デートに行ったこともないんですけど、ある日突然、携帯に「結婚しましょう」とメールが届いたんです。「結婚」という二文字があまりにも唐突過ぎて、リアクションに困ってしまったんですよね。それ以降、返事ができませんでした。

現場の知人に相談したところ、やはり男性社会であるブルーカラーの業界は総じて出会いが少ないんだなと感じています。こういう経験を通して、自分が女性であることを色んな意味でより強く意識するようになりました。

「よくぞ言ってくれた!」に感激

——橋本さんの初著『トラックドライバーにも言わせて』の反応はどうでしたか。

本では、トラックがノロノロ運転をする理由や、一般のドライバーさんから批判されがちな路上駐車、ドライバーがハンドルに足を上げて休憩する「足上げ」をせざるを得ない理由など、トラック業界の複雑な内情を紹介しています。

ドライバーさんから「よくぞ言ってくれた!」という声を沢山いただいていてすごく嬉しいです。でも、最大の収穫は、この業界の外でも話題にしてもらっていること。一般のドライバーさんや消費者の方にトラック業界の事情を知ってもらうきっかけができた点だと思っています。