早速、武具の手入れや講習、土木、稽古事などを命じ、暇をなくすように努めさせた。すると1カ月で消費していた量の炭薪が3カ月も持つようになったのだ。見事、節約成功である。

無駄な時間ができぬように仕事をさせ、炭薪を使う「時間」を削減したわけだ。節約を強いることなく、使用量を減らせる。ストレスを与えるようなやり方は効果を生まない。視点を変え、別の方法を考えたほうが効果を得やすい、という教訓だ。

また、消費量(フロー)を見るだけでは十分な節約はできず、ストックに目を向けることも重要だと気づかせてくれる。藤吉郎が商人の案内で山を検分し、台帳と照らしたところ、3分の1のごまかしがあることが判明。そこで不正への罰として、商人には伐採本数の5倍の苗を植えるよう命じた。

いずれも視察と考察の賜物である。当事者から上がる報告だけでは、真実は見えてこない。指揮をとる者は「現場主義」を徹底させることが重要なのだ。

財務担当者の仕事も然り。財務諸表を見ているだけでは問題点を発見できない。工場や倉庫など現場に足を運び、自分の目や耳を使ってこそ、改善すべき個所がわかってくる。

さて、企業で行われている節約はどうだろうか。文具など、消耗品の節約を強いることで気持ちが引き締まるなら成功だが、窮屈な思いを抱くようなら、社員のモチベーションが下がり、その成果は限られるだろう。

役員のグリーン車利用を禁止、というのもありがちだが、「役員に昇格すればグリーン車」と思えばこそ、社員の士気も上がるというもの。チェックすべきは、経費の多寡でなく、経費に見合った仕事ができているかだ。

一方で、絶対にやってはいけない節約もある。研究開発費を削るということは、将来、果実をもたらす苗に水を与えないのも同然の愚行だ。

最後に会計士として助言を一つ。経理伝票に経費の使用目的を記入する欄が「摘要」である。同じ「出張旅費」でも、その摘要欄を見て、節約すべきものかどうかを判断してほしい。

(構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)