世界中の大ヒットゲームを「移植」してユーザーを拡大
テンセントのゲーム事業への取り組みは、早期から行われていました。2003年には、オンラインゲームに参入しています。当初から、テンセントはゲームを無料でダウンロードできるようにし、ゲームで使用できるアイテムなどを購入するときに課金してもらう、というモデルを採用していました。すでに「QQ」によって膨大なユーザーを獲得していたため、「一部のユーザーに少額の課金を繰り返ししてもらう」という仕組みで大きな収益を上げられたのです。
また、テンセントは、ゲーム以外にもさまざまな有料サービスを提供し、その料金を支払う仕組みとして、プリペイドカードを発行しました。プリペイドカードを幅広く流通させることで、ユーザーにとって課金をしやすくさせたのです。そして2009年、テンセントは中国国内のゲーム市場においてシェアトップに立ちます。
その後、テンセントはさまざまなゲームをリリースしていくと同時に、ゲームの“移植”にも積極的に取り組みます。米国のライアットゲームズの「リーグ・オブ・レジェンド」や、スウェーデンのスーパーセルの「クラッシュ・オブ・クラン」といった、すでに世界中で人気を呼んでいるゲームを自社のプラットフォーム上でプレイできるようにし、多くのユーザーを呼び込みました。2015年には、満を持して投入したオリジナルゲーム「Honor of Kings」が大ヒットします。1億件を超えるダウンロード数を記録し、中国国内で社会現象になったほどです。
中国政府の規制強化で企業戦略を変更
テンセントのビジネスモデルの中核に位置するのがゲーム事業であることは間違いありません。ただし、テンセントの企業としての戦略は、ここ数年で変化しつつあります。その背景にあるのが、中国政府のゲーム事業に対する規制の強化です。
テンセントの「Honor of Kings」が、社会現象になるほどのヒットを記録するまではよかったのですが、そうした状況に中国政府が危機感を抱いたのです。2017年、共産党中央機関紙「人民日報」において、中国政府は「テンセントは有為な若者たちを中毒に陥れる社会悪をつくっている」というコメントを出しました。実際、中国政府は2018年3~12月の期間、発売されるゲームの審査を停止し、その間、新作ゲームがリリースされることはありませんでした。これがテンセントの収益にも影を落とし、最近の株価が冴えない大きな要因となっていたのです。中国政府の規制強化によって、ここ数年のテンセントの売上高に占めるゲーム事業の比率は減少傾向にあり、直近の2019年7~9月期では、ゲーム事業の売上高比率は29%にまで低下しています。
ゲーム事業に代わって伸びているのが、売上高の内訳③「その他」に含まれている、「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」に代表される金融サービスと、企業向けのクラウドサービスです。この2つを合わせた売上高は28%に達しており、もはやゲーム事業と肩を並べる水準になっています。