特設サイト「COVID‐19と戦う」の開設で存在感

そして、中国でアリババとの熾烈な競争を繰り広げるテンセントもまた、最先端テクノロジーを使って新型コロナウイルス対策を積極的に進めています。テンセントは、中国政府の国家プロジェクト「次世代人工知能(AI)の開放・革新プラットフォーム」で、「医療画像」の分野を委託されています。この「AI×医療」で存在感を増すテンセントの知見を結集して開設されたのが、新型コロナウイルス対策の特設サイト「COVID‐19と戦う」です。

新型コロナウイルス対策の特設サイト「COVID‐19と戦う」より
新型コロナウイルス対策の特設サイト「COVID‐19と戦う」より

このサイトでは、「COVID-19の拡大と戦うためにテクノロジーの力を活用する」とのスローガンが掲げられ、テンセントがもつAI、クラウドなどのテクノロジーやソリューションを利活用した対策が用意されています。テクノロジーの利活用、医療情報や医療サービスの提供、遠隔ソリューションの提供、およびテンセントが関わるCOVID-19関連ファンドの紹介という4つのカテゴリーに分かれています。

テクノロジーの利活用としては、COVID-19のセルフトリアージ(緊急度の自己判定)を支援するオープンソースツールや情報共有アプリ「COVID-19ミニプログラム」などが提供されています。医療サービスでは、「ウィードクター(WeDoctor)」による無料のオンライン健康診断や心療内科カウンセリング、AIによる新型コロナウイルスの症状のセルフチェッカーなど、テンセントならではの強みを活かしたメニューが取り揃えられています。また、遠隔ソリューションでは、「ウィーチャット(WeChat)ワーク」を使った学習や仕事でのリモート環境の構築支援も行っています。

他にも、テンセントクラウドによるコラボレーションツールの無償提供、「COVID‐19 グローバルハッカソン」の発起、1億ドルファンドの立ち上げなど、様々な新型コロナウイルス対策を実行に移しています。

本稿では、そうしたテンセントの取り組みの背景にある、同社の強みや特徴、その根底にあるミッションなどについて考察していきたいと思います。

かつては「アジア最大の時価総額」を誇っていた

中国のメガテック企業BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の中で、日本人にもっとも馴染みのない企業がテンセントかもしれません。アリババやバイドゥは、メインの事業の中に企業名を冠したサービスを持っていますし、ファーウェイも株式市場に上場してはいないものの、同社製のスマートフォンやタブレットは日本で人気があります。

日本での知名度こそ低いものの、じつは、テンセントはかつてアジア最大の時価総額を誇っていた企業でした。テンセントが株式を香港市場に上場したのは2004年6月です。以降、右肩上がりで株価が上昇し、2016年9月には、ついに当時アジアでトップの座にあった中国の携帯電話通信事業者「チャイナ・モバイル」の時価総額を超えます。その額は、なんと約26兆6000億円。ちなみに、当時の日本のトップだったトヨタ自動車が約21兆円です。