「AI×医療」で新型コロナウイルスに対峙

以上、歴史や売上構成をひも解きながら、テンセントの特徴についてまとめてきました。

田中道昭『経営戦略4.0図鑑』(SBクリエイティブ)
田中道昭『経営戦略4.0図鑑』(SBクリエイティブ)

ここで、もし「テンセントは何の会社か?」と問われるなら、最も適切な答えは「コミュニケーション・プラットフォームを握っている会社」ということになるでしょう。テンセントの事業領域は、SNSを起点にしながらも非常に幅広いものとなっています。ゲームやデジタルコンテンツ、金融サービス、クラウド、OMOなど多岐に及び、SNSで強固な基盤を築くことに特化して広告で稼ぐというビジネスモデルのフェイスブックとは実に対照的です。

そして、テンセントが戦略的に強化してきているのが、冒頭に述べた「AI×医療」です。2017年8月、テンセントは顔認識などのAI技術を結集した「AI医学画像連合実験室」を設立しました。この実験室は、たとえば、食道ガンの早期スクリーニング臨床実験の仕組みを整えています。従来、医療画像の所見は、医師の技量と経験に頼らざるを得なかった面がありますが、そこにAIを導入し、精度を高めようというわけです。

この他にも、テンセントは医療サービス分野に積極的に進出しており、オンラインでの診察番号の取得や診察料金の支払い、診察時間の通知、病院内のルート案内などの機能を実用化しています。今後、医療画像の知見データの蓄積が進めば、過去の診断データや、病院および医者のネットワークを活用して、新しい医療サービスの開発が加速していくでしょう。

テンセントは「コミュニケーション・プラットフォームを握っている会社」として、「AI×医療」やコロナ対策をその中に取り込み、まさに社会実装を完了しています。

「中国式デジタル資本主義」には賛否あり、筆者としては価値観的にそれを首肯するのは困難ですが、少なくとも私たちには、テンセントをはじめとする中国メガテック企業や中国の動向を注視していくことがさらに求められてくるはずです。

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