ミッションが「個人」から「社会」へ

テンセントは、2019年に新しいミッションを掲げました。それが、「使う人に価値を与え、社会を良くするための技術(Value for Users, Tech for Good)」です。

従来のテンセントのミッションは、「インターネットの付加価値サービスによって生活のクオリティを向上させる」でした。新旧のミッションを比べると、旧ミッションは「生活のクオリティの向上」と“個人”に重心が置かれていましたが、新しいミッションでは「社会を良くする」となっており、“社会”に対するスタンスを明確にしています。

このようなテンセントのミッションの変更の背景には、中国政府のゲーム事業への規制強化があるのは当然ですが、テンセント自体の変化も影響していると想定されます。テンセントは、「QQ」「WeChat」といったコミュニケーション・プラットフォームを軸に、ゲームだけでなくさまざまな事業を展開してきました。ここ数年、売上高の伸びが著しい金融サービスやクラウドがその筆頭です。そうしたサービス以外にも、以前から注力していたAIを活用した医療サービスや自動運転、小売業で成果が表れてきています。いずれも「社会を良くする」事業であることは間違いありません。

小売業にも進出し、アリババと激突

特に、小売業では、「BtoC」のEコマースとして中国2位の「京東商城」の筆頭株主となり、さらに、中国大手スーパーマーケットチェーンの「コンフイ」にも出資し、オンラインおよびリアル店舗と一体となったグループを形成しています。そして、コンフイは、アリババの「フーマー・フレッシュ」とほぼ同じ業態の、「チャオジーウージョン」というオンラインとオフラインを融合させた新店舗、つまり「OMO(Online Merges with Offline」の展開を開始しています。「チャオジーウージョン」と「フーマー・フレッシュ」の違いは、支払いに使うのがアリペイではなくウィーチャットペイくらいといわれるほど、2つの店舗はそっくりですが、その分、競争は激しくなっています。

テンセントVSアリババ。中国におけるOMOの覇権争い

2013年のスタート以来、スマホ決済サービスのウィーチャットペイは、急速にユーザーを獲得しています。アリペイの後発ではあるものの、モバイル決済のシェアでは、足元でほぼ肩を並べるところまで成長しています。テンセントは、ウィーチャットペイを入口として、銀行や証券といった金融サービス事業にも進出しています。小売業でアリババの牙城を脅かすような存在になれば、テンセントが株式の時価総額で再びアリババを逆転することも可能でしょう。