地球規模に発想を広げるiPadメモ術

孫は、新しい事業にチャレンジする際には、最初に当該分野における内外の有識者を集め、彼らの話を聞いてビジネス構想をまとめていくのが常です。メモを手に専門家の話にじっくりと耳を傾けながら、その事業の「Key Factor for Success(成功の鍵)」は何かを冷静に見きわめようとしていました。

10年にiPadが発売されると、孫は好んでメモツールとして活用していました。

当時、自然エネルギービジネスへの進出を目論んでいた彼は、例によって世界各国の専門家に話を聞いていました。孫はiPadを手に、時折メモを取りながらじっと話を聞いていました。

自然エネルギーには決定的な弱点があります。太陽光や風を利用するため、安定した出力を維持できないのです。それで、日本中に送電線を張り巡らせれば、どこか晴れているところ、どこか風が吹いているところで発電した電気を全国に届けることができるんじゃないかと考える。しかし、交流の送電線は、距離が長くなると大きな電力ロスが生じるというデメリットがあるのです。

そのとき専門家の1人から「直流ならば、仮に3000kmの距離を運んでも5%しか減衰しない」という説明がありました。その瞬間、孫の手元を見ると、iPadの画面に指で「5%」と書き、グルグルッと丸で囲んでいる。さらに「3000km」「直流OK」とメモしていました。このとき孫の頭の中がフル回転を始めます。

ふと手を止めて「3000kmって、日本からどこまでだろうか?」とか「世界で一番いい風が吹いているところはどこですか?」と質問するんです。専門家の説明で、モンゴルのゴビ砂漠では一年を通して素晴らしい風が吹き、太陽が照っていると知った孫は、「モンゴルで作った電気を直流送電線で九州まで送る」というアイデアにたどり着くんです。

これが後に、アジアの国々をケーブルでつなぎ、自然エネルギーで発電した電力をやりとりする「アジアスーパーグリッド構想」につながりました。メモを取っているとき、孫の頭の中では世界スケールまで発想が広がるんです。

孫にとって、メモは「思考を加速するためのツール」でもあるのです。ビジネスパーソンの皆さんも、単なる備忘録としてのメモを卒業して、「発想を広げ、共有するためのメモ術」を身につけてみてはいかがでしょうか。

(文=梅澤 聡)
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