人口当たり世界最多のCTやMRIが重症化を防ぐ?

なぜ日本では死者や重症者が増えないのか。

「日本が欧米と比較して重症化、死亡者が少ない原因はまだ解明されていません。欧米諸国のような挨拶時のハグやキス、握手の習慣がないこと、手洗いの重要性が早期に衆知されたこと、マスクをつけることが習慣化されていたことなど、様々な要因が取り沙汰されています。また最近では疫学的な研究から、日本型のBCGワクチン接種が新型コロナの重症化に歯止めをかける効果があるのではないか、という意見が出ており、それもあり得ると考えています」

高橋氏が「もう一つの可能性」として指摘するのは、日本では医療機関におけるCT、MRIの普及率が世界的に見ても突出して高いことだ。

「新型コロナ感染の確定診断を下すには、今のところ患者の鼻咽頭粘液などにウイルスの遺伝子が含まれているかを見る、PCR検査をするしかありません。しかしPCR検査は確定までにPCR部分だけで数時間を要し、患者数が少ない間は効率が悪く医療資源の浪費になります。また、検査希望者が病院に殺到すれば、医療崩壊を引き起こす懸念があります。それに比べて肺の断層画像を撮るCTやMRI検査はその場で重症化する前の肺炎の兆候を見つけることができます。新型コロナを含む肺炎患者を早期に発見していることが、日本の重症者、死亡者の抑制につながっていることは確かです」

専門家会議の医療対策、東京以外はうまくいっている

医療崩壊を防ぐためには、感染者が増加するスピードをできるだけ遅らせ、流行のピークをなだらかにすることが非常に重要だ。その点で、専門家会議の意見をもとに2月23日に厚生労働省が発表した「新型コロナウイルス対策の目的(基本的な考え方)」の図は、専門知識を持たない一般国民にも一目で理解しやすく、「感染防止のためのリスクコミュニケーションとして良かった」と高橋氏は評価する。

もっとも、「政府と専門家会議との連携がうまくいかなかった」と見られる事例もある。2月27日に安倍首相が発表し3月2日から実施された小中高校の一斉休校措置である。

「当時の新型コロナは高齢者および高血圧、糖尿病などの既往症を持っている患者が重症化しやすいこと、それに対して子供の感染率、重症化率はともに低いことがわかっていました。全国の中でもいち早く感染者の数が増加した北海道ですでに一斉休校措置がとられていましたが、その結果、ある病院で看護師さんの約2割が勤務できないという事態になりました。医療崩壊を防ぐという観点から言えば、それらの手当てのない『あの時点での』休校は十分な専門家の意見を聞いた上での判断ではなかったと思います。しかし感染症対策では『やった対策を正解にする』ことが重要です。その意味で、専門家会議の医療対策は東京を除いて状況をうまくコントロールしていると感じます」