なぜ「小物ウイルス」対策が過激化するのか
新型コロナウイルスについては「インフルエンザなどの『横綱』に比べれば小物であり、『幕下』クラスに過ぎない」と断言する研究者がいる。沖縄在住のウイルス学者で、インフルエンザ研究の第一人者として知られる根路銘国昭・生物資源研究所所長である。
根路銘氏はさらに「新型コロナというが、あれはSARSウイルスの変異体で、まったくの新型ではない。世界各国や社会の反応は過剰反応であり、心理的な『コロナ病』の弊害が大きい」との見解を明らかにしている。また、実業家の堀江貴文氏も「インターネットとスマホの普及がもたらした史上初めてのインフォデミック(情報のパンデミック)だ」と指摘するなど、社会の過剰反応ぶりを憂える声も広がっている。
高橋氏もそうした声には同意できる部分が多いと述べ、次のように補足した。
「確かに日本で流行している新型コロナは、致死率が数十%のエボラ出血熱や、毎年のように変異して国内で数千人の死者を出すインフルエンザのような横綱に比べれば、幕下クラスのウイルスです。ただ、死亡率が高い欧州の新型コロナウイルスは変異によって大関クラスになっている可能性があるので、楽観はできません」
全国一律の対応は、バランスを欠いたやり方だ
もう一つ、高橋氏が「同意できる」というのは、国や社会の反応が過剰ではないかということだ。
中国はもとより、感染拡大が続く欧州諸国や米国では法律に基づく都市封鎖が行われ、日本でも政府の要請による一斉休校や大規模イベントなどの自粛が全国的に広がっている。こうした社会の「過剰反応」をもたらしたのは何なのか。
高橋氏によれば、それは「リスクに対する考え方」。
「私たち医療者は病気と医療行為に関して、常にリスクとベネフィットについてそれぞれどのぐらいの大きさ(縦軸)のものがどのぐらいの頻度(横軸)であるかをマトリクス図のようにして考える習慣が身についています。新型コロナでいえば、これまでは、若い世代に限れば重症化するリスクは低かったし、インフルエンザに比べると感染力も弱かった。それに対して都市封鎖など副作用の強い強烈な措置や全国一律の対応をとるのは、バランスを欠いたやり方です。一方で、欧米のように指数関数的に増加する気配が見られる地域ならば検査も必要だし、都市封鎖の弊害よりも人命のリスクが大きく、踏み切るほうがいい。医療者なら共有しているそうした考え方を一般にも広めようという努力が、私たちに足りなかったのかもしれません」