安倍首相は「専門家会議」に諮ることなく、決定した

「新型コロナウイルス感染症」に対し、安倍政権は次々と対策を打ち出して表明している。だが、その大半は唐突で異例な呼びかけだ。安倍晋三首相が記者会見して対策を声高に叫べば叫ぶほど、社会は混乱して国民がパニックを引き起こす。株価が大幅に下落したコロナショックや、店頭からマスクとトイレットペーパーが消えたのがそのいい例だ。

たとえば政府が2月1日、患者を強制的に入院させるために新型コロナウイルス感染症を感染症法上の「指定感染症」とする政令を施行した。しかし、専門家会議を開かずに首相官邸がトップダウンで決めていた。25日の基本方針では大勢の人が集まるイベントの自粛を要請した。27日には全国の小中学校と高校に対して一斉の臨時休校を求めた。これらも専門家会議に諮ることなく、決定した。

参院予算委員会で、東京五輪について答弁する安倍晋三首相=2020年3月23日午前、国会内
写真=時事通信フォト
参院予算委員会で、東京五輪について答弁する安倍晋三首相=2020年3月23日午前、国会内

なぜ「死者7400万人」を想定する最悪ウイルスと同様に扱うのか

なかでも沙鴎一歩が驚いたのは、3月13日に改正特別措置法(改正特措法)を成立させたことである。同法は翌14日から施行された。

改正によって新型コロナウイルス感染症を同法の適用対象に加えたわけだが、そもそも同法が想定している新型インフルエンザは病原性(毒性)が強く、感染力も高い。WHO(世界保健機関)の推計をもとに世界で7400万人が感染して命を落とす事態を想定している。この想定では日本国内でも3200万人が感染し、64万人が死亡する。実際には被害がこの数倍にも及ぶ危険性がある。

この新型インフルエンザに比べ、世界の新型コロナウイルスの感染者数は20万人(3月18日のWHO公表)で、死者は約8000人(同)にすぎない。新型コロナウイルスは毒性も感染力も弱い、恐れるに足らない病原体なのである。

それにもかかわらず、安倍政権は最悪の新型インフルエンザと同様に扱っている。危機管理の意識にバランス感覚が欠けている。安倍首相の脳裏には自らの政治基盤を維持することしかない。