社会から自由が消え、感染者への差別や偏見が増大する
改正特措法によって首相が「緊急事態」を宣言することができるようになった。宣言が出されると、主に次のようなことが可能となる。
(2)学校や映画館、スポーツ施設などの使用の制限や停止を指示する
(3)医療品や食品を業者から強制的に収用する
(4)所有者の同意を得ずに土地や建物に臨時の医療施設を開設する
いずれも私権の制限につながる危険性が強い。まさに戦時中の軍部による戒厳令下だ。特別措置法は抜いてはならない「伝家の宝刀」なのである。
こうした強硬な対策は、「アベ1強」という数に頼る負の政治姿勢から生まれてくる。もちろん、感染症対策の基本は人の移動禁止と感染者の隔離だ。しかし、これが行き過ぎると、社会から自由が消え、感染者に対する差別や偏見の意識が増大する。そこを安倍首相はどう考えているのか。
「そこまでのものではない」と話す専門家会議のメンバー
そう言えば、3月18日付の朝日新聞のオピニオン面に、改正特措法と緊急事態の宣言に否定的な意見を持つ川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長(73)のインタビュー記事が大きく掲載されていた。岡部氏は政府の専門家会議のメンバーであり、新型インフルエンザ(2009年)のパンデミック(地球規模の流行)をきっかけに制定された特措法をまとめた上げた感染症対策の専門家の1人でもある。
岡部氏は朝日新聞のインタビュー記事のなかで「『法律ができあがったから、この病気ですぐ宣言しよう』ということには反対です。宣言は伝家の宝刀であって、そんなに簡単に抜くようなものではありません」と宣言に反対する立場を示したうえで、こう述べている。
「新型コロナはそこまでのものではないと考えているからです。想定した新感染症は、感染症法でのエボラ出血熱のような1類感染症並みの極めて危険なものです」
ここで岡部氏は「そこまでのものではない」と言うのは、今回の新型コロナウイルスが特措法に入れるような危険な病原体ではないとの意味である。
「緊急事態宣言を出せば、私権制限などで対策の幅が広がる半面、社会の日常的な活動を止めてしまうと副作用も大きくなります。致死率が5%、10%を超える1類感染症並みであればやむを得ませんが、新型コロナは指定感染症で2類相当とされました」
岡部氏も沙鴎一歩が前述したように、新型コロナウイルスという病原体について毒性も感染力も弱いと判断し、緊急事態宣言を出すことには反対しているのである。