突然大会に出て、世界一になれるのがゴルフ

IMGアカデミーとは、アメリカのスポーツマネージメント企業「IMG」が設立した、エリート育成施設である。世界中からテニス、野球、バスケットボール、そしてゴルフの有望選手を集めている。特にテニスでは錦織のほか、アンドレ・アガシなど著名選手を輩出している。

「ゴルフというのはゴルフコースとの勝負なんです。コースに勝てばいいのだから、試合に出る必要はない。ジュニアの時代の大会なんていうのは、早くたくさん練習したかどうか、の競争。練習していないプレーヤーは当然のことながら負けてしまう。ゴルフにおいて、負の体験、失敗体験は必要ない。世界のトップクラスの選手はOB(アウト・オブ・バウンズ)を打ったことがないはずです。ボールが曲がった経験が少ない。だから緊迫した中でもボールが曲がるんじゃないか、と恐れることがなく自信を持って打つことができる。十分な練習を積んでいない段階での負ける経験はマイナスでしかない。ひたすら自分の技量を磨いて、スコアを縮めれば、突然大会に出て、日本一、世界一になれるのがゴルフなんです。野球で親が密かに練習をさせていて、いきなり高校3年生で登板してドラフト候補になるようなことは絶対にありえない。それがあり得るのがゴルフ」

スポーツは子供への投資

井上によるとゴルフは、子供のうちから親が強制的に練習をさせれば必ず上達する。1万時間に近い練習を積み重ねれば“プロレベル”になることができる。ただ、トッププロになれるかどうかは、1万時間に到達しないと分からない――。

スポーツは子供への投資でもある。親は子供に夢を見て大金を費やす。その投資を回収することができるか。この点においてゴルフは極めて不透明だ。また、ほかの競技、集団競技のSIDを身につける可能性も失う。

金銭的な出費という面を含めて、子供にゴルフをやらせるかどうかという判断は非常に難しい。

それについて井上はこう答える。

「親の役割は、子供の前に様々な選択肢を並べることではないでしょうか。様々な習い事をさせて、その中で自分に向いているものを探させる。集団競技と個人競技、道具を使った競技と使わない競技、様々なスポーツをやらせて、その中で自分が光るところを選ばせる」

井上のスクールでは入所の際、ここはプロゴルファーを養成する場所ではないと親に釘を刺すという。

「ゴルフに専念して勉強をしないという状態は異常です。ゴルファーである以前に社会人にならなければならない。ゴルフだけやっていると、潰しが効かない。すごく幅が狭い人生になってしまう。ぼくが東大ゴルフ部の監督として発信したいことの一つは、勉強とゴルフは両立できるということ。良きアマチュアゴルファーを作ることなんです」