「私はバナナです」と言ってどうするのか

【鳥飼】たとえば「フルーツ・バスケット」という定番のゲームがありますが、「アイ・アム・バナナ」と言わせている授業を見たことがあります。不定冠詞の「a」が抜けているのはともかくとして、発音も日本語の「バナナ」のままでしたし、そもそも「私はバナナです」なんて表現を覚えてどうするんですか(笑)。

撮影=中央公論新社写真部
明治大学の齋藤孝教授

小学校の英語指導は学級担任が中心ですから、先生が完全な日本語で「アイ・アム・バナナ」「アイ・アム・アップル」などとお手本を示して生徒がそれを繰り返すことがある。こういうゲームが楽しそうな子どももいるけれど、後から発音や文法を学び直すことになってしまう。

それで教科にしようとなったのでしょうが、文法は教えないことになっているんです。ところが検定教科書を見たら、過去形もあるし疑問文もある。命令文もあれば、助動詞を使っての丁寧表現まで登場します。これを小学生にどう教えるんでしょう。

【齋藤】文法を教えると嫌いになるおそれがあるからダメ、ということですか? しかし文法というのは、実は外国語を理解するための早道です。基本的な文法構造を分かっていたほうが、早く話せるようになる。それを教えてはいけないというのは、両手を縛るような感じですね。

文法なしの外国語教育は、ルールなしのスポーツと同じ

【鳥飼】文法の説明を小学生にしても英語を話せるようにならないし、英語嫌いになってしまうということなのでしょうが、基本的な文法を教えないと、かえって分かりにくいことがあります。疑問文になると語順が変わることを、どう説明するのだろうかと思いますが、説明しないで覚えさせるのでしょうね。でも、文法を教えずに外国語を教えるというのは、ルールを教えないでスポーツをやるようなものでしょう。文法というのは、言語の基本ルールですから、それを知らないと、応用がきかない。

【齋藤】何もルールが分からないまま「とにかく慣れろ」と言われても、子どもたちだって困るでしょう(笑)。

【鳥飼】ちなみに学習指導要領によれば、小学校で英語の授業をする目標は「外国語によるコミュニケーションにおける見方、考え方を働かせ、(中略)コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を(中略)育成することを目指す」となっています。よく分かりませんね。

【齋藤】もう日本語としておかしい。「見方、考え方を働かせ」という表現はないですよね。意味が分からない。

【鳥飼】先日も、とても一生懸命で真面目な小学校の先生が、学習指導要領を何度も読んで、それでもよく分からないと、悩んでいました。