帰国子女は「発音がいい」から憧れられる

【齋藤】一方、英語は世界的な言語なので、それぞれの国の訛りがあってもいいという考え方もありますよね。

【鳥飼】そうなんです。だから日本人も日本語訛りの英語で構わないということを、以前『国際共通語としての英語』(講談社現代新書)という本で書きました。とはいえ、ハチャメチャ英語でも困るんですよね。使うときに母語の影響を受けるのは仕方ないのですが、これを守らないと英語にならないという基本的な音とリズムはきちんと学んだほうがいい。

しかし、発音にコンプレックスがあるというのはおっしゃるとおりかもしれない。だから、ネイティブ・スピーカーに憧れるし、帰国子女にはかなわないと思ったりするのでしょう。話の中身に憧れるのではなさそうです。

【齋藤】帰国子女が一目置かれるのは、ひとえに発音がいいからでしょう。話の内容まで言及する人はいません。実際、大したことは言っていなかったりする人もいる(笑)。

【鳥飼】アメリカに語学研修で行った学生が、「いいなあ、アメリカ人は英語がペラペラで。アメリカ人になりたい」なんて言ったりします。だから、発音に特化して対応してあげたほうがいいかな、とは考えていたところです。

【齋藤】そもそも日本人は、発音の練習を徹底的にはしてこなかったですよね。

【鳥飼】そういえば、そうですね。だから、まずは先生が自信を持って教えられるように、教職課程で音声学や音韻学を学ぶことは役に立つと思います。

英語の歌で、発音とリズムが身につく

【齋藤】私の知り合いのジャズシンガーに、女性を集めて英語の歌のレッスンをしている方がいます。彼女によると、たとえば“everything” だったら「エ」「ヴ」「リ」とゆっくり一音ずつ言葉を移すように教えると、皆の発音がすごくよくなるそうです。

【鳥飼】歌はいいですよね。そういえば、ある外国人の英語教員が言っていました。日本人はこれだけカラオケが好きなんだから、もっと英語の曲をカラオケで歌えばいいじゃないか、と。たしかに英語は一つ一つの音というより、強弱が命です。英語の強弱は音符と連動しているので、歌うことで英語の発音とリズムが身につくと思うんです。

【齋藤】カラオケはいいですよね。私は英語の教職課程の授業で、毎週一人ずつ前に出て歌ってもらっています。「君たちはもちろん、カラオケでは英語の歌しか歌わないよね」「生徒の前で恥ずかしがらずに歌えてこそ英語教師だ」などと焚きつけて。

【鳥飼】それはいいですね。そんな授業を実践されているとはビックリ。