「ネイティブ・スピーカーが教えればいい」は違う
【鳥飼】最大の問題は、基礎的な音の出し方をどう教えるか、です。ここを外すと英語にならない、という音があります。それを小学生のうちから学んでおけば、メリットはとても大きい。ところが、そういう指導のできる教員がほとんどいないのが現状です。いかに教員を養成できるかがカギですね。
【齋藤】ネイティブ・スピーカーが教えても、発音できるとはかぎらないですよね。
【鳥飼】ネイティブ・スピーカーはダメ。母語だと、意識しないで話しているし発音もできるので、できない人にうまく説明できません。「その発音、違うよ」と注意はできるし、「こういう音にするんだ」とお手本をやってみせることはできるけれど、なぜネイティブ・スピーカーのような音が出せないのか分からないので、具体的に「唇を横に広げて」とか「舌を口の中で丸めて」とか指南できないんですよ。
留学時代に、発音が間違っていたら教えてと頼んだので、ホストファミリーが全員で、didn’t の[d] と[n] のつながりを私に教えようとしたことがあったんですけど、うまく説明できないんです。こちらは何が悪いのかさっぱり分からない。で、彼らは見本をやって見せてから、ひたすら何度も私に言わせてみて、「違うな」「なんか違う」などと首をかしげるんです。最後に「それだ! それでいい!」となった時には、全員が疲労困憊でした。
なぜ教職課程で「音声学」を必修にしないのか
【齋藤】たとえば今は電子黒板もあるので、口の形を示しながら発音を教えるような教材があってもいいですよね。これなら、たとえ発音の下手な先生でも、「繰り返して」と指示を出すだけで済みます。
【鳥飼】口の形を画像や映像で見せても、それだけでは難しいかもしれません。口の中での舌の位置や動きまでは分からない。昔、発音講座のビデオを見たことがありましたけど、口のアップが延々と映っていて気持ち悪いだけで、結局、肝心の口の中で舌がどうなっているかは分かりませんでした。
発音の指導で決定的に重要なのは、音声学の知見だと思います。音声学の専門家の指導を見たことがありますが、歯医者さんにある歯型のオバケのようなものを使って、獅子舞みたいに開けたり閉めたりしながら、「口をこう開いて舌は顎のここにつけて、すぐに離す」などと丁寧に教える。そのとおりにやってみると、英語の音が出るようになるんです。
だから、なぜ教職課程で音声学を必修にしないのかと思いますね。先生が発音に苦手意識を持っているし、教えられないから、生徒も発音できないんですよ。
【齋藤】「ペラペラ・コンプレックス」の裏返しで、発音に自信を持つことができれば人前で英語を話す勇気が出てきますね。日本人がうまく話せないのは、発音が悪くて通じないのではないかという怯えがあるから。それで声が小さくなってますます通じない、という悪循環に陥る。
【鳥飼】相手に“What ? ”とか聞き返されると、ますますね。